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SNSI中田安彦レポート

山本太郎議員の直訴状問題について(4)~憲法知らずの国会議員
SNSI中田安彦レポート
2013年11月 8日 07:00

SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

 山本太郎参議院議員が「福島原発の作業員の状況」について園遊会で天皇陛下に現状を伝える内容を記した手紙を渡した件について。(1)~(4)の問いを設けて憲法上正しいと思われる回答を書いてみた。今回は、そのまとめを掲載する。

<まとめ> 
 この問題を更に考えていくと、行政府がなぜ機能していないかという制度疲労の問題に行き着く。まず、日本の議会制度が大震災直後から形骸化しているところに、このポーカーにおける「ジョーカー」というほかない天皇への直訴行動が出てきた。現在の憲法体制のもとでまさか本当に起きるとは想定されていなかった事態が起きている。
 もしかしたら、右も左も再び「戦前レジーム」を志向しているのか。
 そうであるならば私はもはや何も言う立場にはない。現代の「大正デモクラシー」というべき非自民政権(民主党政権)がアメリカによる外圧の力と、震災という天変地異によって統治機能の欠如を露呈させて瓦解していった後は、自民党政権とは名ばかりの官僚主導政権(かつての藩閥政治に匹敵)の復活という事態になっている。秘密保護法をめぐって基本的人権に関する立憲体制が骨抜きにされかかっているなか、統治に関する立憲主義をめぐる議論もこの問題をきっかけにあらぬ方向に誘導されかねない。

 この問題の落とし所は私にもよくわからない。「国会議員による天皇への直訴は実はお咎め無しだ」ということがわかってしまうか、院外行為の処罰を正当化する道を開くか。極論を言えばこの2つで、実際はその中間でお茶を濁すことになると思う。 
 憲政を守るという点で言うならば、今回、山本議員が自ら責任を感じて議員辞職をするのが一番いい。このことによって、憲法遵守義務は価値中立的なものであることを立法府の議員に示すことになる。そのことを自民党議員が認識するきっかけになるだろうから、立憲体制のルールが議員を縛るという事を示したこととなる。極論すれば山本議員が自ら議員辞職することで、憲法を守ることの重要さが際立つことになる。
 議員以外が決断した場合、まったく処分なしであっても、前例のない処分を行なったとしても禍根は残る。お咎めなし、だとわかれば右派系議員が「陛下の靖国参拝」を直訴する事例も出てくるだろうし、「尖閣諸島への灯台建設」を直訴する例も出てくるかもしれない。あるいは改憲論議において天皇に対する元首としての役割を認める方向に議論が進む可能性もないとはいえない。天皇に対する直訴行為を世論形成のために使う事例も出てくるかもしれない。

 今の天皇陛下は平和主義を志向しておられるが、将来の天皇がどのような個性を有しているのかは今の段階ではわからない。その時に何らかの立法・行政に関する権能を天皇個人が有していていいのだろうか。そのような状況を防ぐために日本国憲法の第1条があったはずなのだ。
 だから、自発的に議員が決断する以外のどちらの決着をとったとしても、あまりよい決着にはならない。そして、どっちに転んでも、ふんだり蹴ったりなのは、結局待遇改善はされないまま放って置かれる原発作業員たちだろう。
 「動機において善なる行為は可なりや」。もっと考えてみるべきだと思う。議会制民主政治において重要なのはプロセスであると思うのだが。今回の山本議員の行為が天皇陛下に対する不敬であるとはまったく思わないが、国会議員がその行為におよんでしまったことに、今の日本の統治機構(立法、行政、司法)に対する危機感を覚えないわけにいかない。

 なぜ、そのように考えたかというと、現在、欧米諸国の政治学者の間では「制度的衰退」というのが大きなテーマになっているからだ。アメリカの債務危機をめぐる議会制度の機能不全に代表されるように、民主主義の制度自体が衰退を始めているのではないかという疑問について深く論客たちが議論しているのだ。たとえば、アメリカのフランシス・フクヤマやイギリスのニアール・ファーガソンなどの主要な文明史家たちの間で、「なぜ欧米の民主主義は制度的に衰退してしまっているのか」という疑問に答えを出そうとする議論が盛んに行なわれているのがそれだ。(ファーガソン著『劣化国家』東洋経済新報社などの議論を参照)
そのような状況のなかで沸き起こった今回の騒動。統治機構の機能不全、文明史的に言えば西欧型モデルの衰退そのものを意味する「制度的衰退」という問題。考えるべきことはあまりにも多い。

(了)

≪ (3) | 

<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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