避難計画の実効性に疑問の声があがっている。
交通工学の専門家で、原発避難計画の検証をした上岡直見・環境政策研究所代表の講演会が5月31日から6月2日にかけて、佐賀市、佐賀県伊万里市、福岡市で開かれた。
実行委員会や、「玄海原発プルサーマルと全基をみんなで止める裁判の会」(石丸初美代表。みんなで止める裁判の会)が主催したもので、参加した市民は「これでは逃げられない」「実態に即して、住民の被曝を防ぐ計画でなければいけないのに、計画・シミュレーションには納得できない」と話していた。
<避難計画ではなく、「被曝計画」>
上岡氏は、「段階的避難として、原発から5キロ圏内のPAZの住民が先に30キロ圏外へ避難してから、5~30キロ圏内のUPZの住民が避難を始めると想定しているが、UPZ全域で放射性物質が降る事態なのに、『5キロ圏外の住民は待っていろ』というものだ。避難計画ではなく『被曝計画』だ。」と批判した。
佐賀県は4月に、九州電力玄海原発(同県玄海町)の過酷事故を想定した住民の避難シミュレーションを公表している。30キロ圏内の約19万人の9割が圏外に出るまでの所要時間は、最長19時間30分としている。
鹿児島県が5月29日に発表した九州電力川内原発(同県薩摩川内市)の避難シミュレーションでは、30キロ圏内の約21万人の9割が圏外に出るまでの所要時間を最長28時間45分としている。
<現実には...大渋滞、的確な情報も届かず>
上岡氏は、福島での実際の避難状況を調査した結果として、「通常20分で行けるような場所へ5時間かかった」と述べ、大渋滞が発生すると指摘。また、「的確に情報が提供されるかのように想定されているが、情報は提供されなかったし、仮に提供されても避難のために動けない。避難への正確な指示を出すには、正確な状況、正確な見通しが必要だが、自治体・住民には的確な指示のもとになる情報が届かないと思った方がいい」と語った。
佐賀県のシミュレーション結果(概要)を知らせる文書(同県ホームページ掲載)を示しながら、問題を指摘。「シミュレーションでは、あくまで、移動時間しか考慮していない。子どもや家族を迎えに行ったりする避難開始までの時間が必要。30キロ圏外に出たことを避難完了としているが、それでは避難は終わらない。スクリーニングを受けて、最終的な避難所へ到着するまでが避難だ」と指摘した。
基本的に住民は自家用車を利用して避難するという想定も疑問がある。上岡氏は、シミュレーションで観光ピークの影響として、唐津くんちの時期を想定しているのに対し、唐津市長が「(住民が)くんちで飲酒していたら運転するのか?」と新聞紙上でコメントしているとして、現実的な避難計画からかけ離れていることを紹介した。
<実効ある避難計画はできていない>
上岡氏は「シミュレーションは、どの県も『避難計画を見直していくための資料』という位置づけだ。つまり、実効ある計画はできていない」と述べ、「避難は何時間かかるかが本質ではなく、被曝をいかに避けられるかが基本だ。国の指針は、被曝することが前提」と批判。大飯原発運転差し止め福井地裁判決にふれて、「原発は、内在的危険が大きい。東日本大震災で止まった発電所はあるが、原発以外では公衆被害は起きていないし、いくつかはその年の夏までに営業運転を再開した。原発は安全ではないし、安定的な電源でもない」と語った。
「みんなで止める裁判の会」は、佐賀県内の避難先となる17市町と、避難元の3市町に対して、避難計画について質問と要請してきた。そのなかで、避難施設は1人あたり2平方メートルと過密状態で、太良町では人口の78%にのぼる約7,700人の避難を受け入れる計画だと明らかになり、同町の担当者が「1桁違うのでは」と驚いたほど。長期化が予想される避難期間について想定がないことも浮かび上がっている。
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