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福岡への提言

「高齢者福祉」に新しい風を～末広福祉会・末永社長

福岡への提言

2011年1月 2日 08:00

（株）末広福祉会　代表取締役社長　末永　広樹

＜生演奏会、短歌、絵画教室など好評＞

　玄関わきのテラスや中庭には、何百という色鮮やかなバラが咲き誇り、周りでは季節の花たちも賑わっていた。介護付有料老人ホーム「フラワーガーデン」という、まさに名前通りの風景だ。「庭園は専門業者が管理していますが、花壇は入居者や職員で好きなようにアレンジしているんですよ」と、運営する「株式会社末広福祉会」代表取締役・末永広樹氏が目を細めて話す。
　「人生の先輩として、大人らしい楽しみを持って過ごしてほしい」という末永氏の思いで建てられた『フラワーガーデン』には、ほかにも大きな特長がある。１階デイルームには音響設備が整い、スタンウェイのピアノやシンセドラムセット、ウッドベースなどの楽器がそろう。月に１度、プロ級の演奏家らが次々に訪れ、ジャズをはじめポップスやクラシックなどを披露。入居者やその家族らも集まって大いに盛り上がる。「認知症の方のなかには、日頃見せない豊かな表情になり、ご家族を驚かせている方もいます。これこそ生演奏の力だと思いました」（末永氏）。実は音楽会は演奏者側にも人気で、出番も順番待ちだという。末永氏自身にも、職員とバンドを組み、夏祭りにビートルズを演奏して喜ばれたという、うれしい思い出がある。
　また、３階の鑑賞室ではドルビーサラウンドの大画面で映画が楽しめ、図書室では毎月催される短歌会で著名な先生に指導・添削を受けている。絵画教室、カラオケ教室などの活動も多彩だ。「日々いろいろな人が出入りしてくれるのも、施設には良い風通しです」（末永氏）。そんな『ガーデン』は、業界にも新風を吹き込んでいる。
"老人ホームらしくない環境"目指す

　（株）末広福祉会の母体は、地場の建築会社㈱末永工務店。先代社長が「自分が入居できる老人施設を」と話している間に入院し、父の望みを叶えるべく末永氏が動き始めたという。しかし、同氏は各施設を見学するうちに疑問を抱く。「全員で童謡を歌ったり折り紙をしたりして、どこか子ども扱いを受けているような施設も少なくなく、これが当然と思われているのが納得できず、自分が入りたい施設を基本に、"老人ホームらしくない"環境づくりを目指しました」（末永氏）。なんと各部屋に光ケーブルまで整備したという周到さだ。
　自信を持ってオープンしたが、最初はなかなか入居者が集まらなかったという。というのも入居者家族に紹介するケアマネージャーや医療機関のつてなどが全く無かったからだ。演奏会のイベントを宣伝しながら見学者を増やし、口づて、人づてで軌道に乗せることができたという。「運営そのものも、現在の介護保険制度では決して楽ではありません。少数精鋭で筋肉質の運営を目指さなければならないが、施設のコンセプトは貫きたい。そこに、ついてきてくれる職員もいますから」（末永氏）。
　今後ますます高齢者福祉分野の産業は広がり続けるが、「単なる利益追求型では、必ず淘汰される」と末永氏は言い切る。「ここは、人がいて初めて成り立つ業界です。高齢者をどこまで大切にできるか。日常は地道で大変な苦労も続きますが、入居者もスタッフも私も、互いに向き合いながら、人としての小さな心の豊かさを、忘れずにいたいと思います」（末永氏）。

＜プロフィール＞
末永　広樹　（すえなが　ひろき）
福岡市出身。九州産業大学芸術学部でデザインを専攻。「（株）末永工務店」総務部長、取締役を経て、「（株）末広福祉会」の立ち上げに奔走。趣味は、音楽と絵画。