「次世代自動車」といえば、HV(ハイブリッド)、PHV(プラグイン・ハイブリッド)、EV(電気自動車)を筆頭に、水素を用いたFC(燃料電池自動車)など"エコカー"の開発が進んでいる。しかし、従来の"ガソリン・ディーゼルエンジン"の究極の省エネ化を重視する研究もある。
<果たしてEVやFCは主流になりえるのか?>
財務省が10月24日に発表した2011年度上半期(4~9月)の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出から輸入を差し引いた貿易赤字額が1兆6,666億円の大幅赤字となった。年度半期ベースの赤字は、リーマン・ショックが起こった08年度下期以来5期ぶりで、東日本大震災による自動車の輸出減などが響いたかたちだ。なお、9月だけ見れば、自動車や自動車部品の輸出額が増え3,004億円の黒字となった。
このように、日本の貿易収支を大きく左右する自動車産業が、日本の基幹産業であることは疑いない。そうしたなか、「エコ」をキーワードに「次世代自動車」が大手メーカーを中心に続々と開発されてきた。しかし一方で、たとえばこれまで技術流出に対し慎重だったトヨタが、10月22日にHV車生産で中国市場を強化すると発表するなど、大震災以降、部品調達や生産の海外移転の動きが相次いでいる。とはいえ、同月に起こったタイの大洪水によって工場が浸水被害に遭い、日系自動車メーカーの生産体制に減産などのかたちで影響を及ぼすなど、海外移転リスクもある。
今年7月、九州大学の村瀬英一教授を座長として「次世代ガソリン・ディーゼル車研究会」が設立された。同会の目的は、「自動車のエコはガソリン・ディーゼル車の発展なしでは当面無し得るものではない」という理念のもと、旧来より存在する技術を極限まで突き詰めることで、ガソリン車やディーゼル車の持つ環境可能性について研究することだ。
同会座長を務め、エンジンのなかでもガソリンで燃焼効率をいかに高められるかという研究(※1)を行なってきた村瀬教授に、研究会設立の真意と今後の車社会の展望を聞いた。
「もともと去年の秋頃から動いていたのですが、当時はマスコミでやたらEVがもてはやされていました。その少し前はFCでした。FCはとてもすぐに一般社会で走れるような状態でないのに、マスコミの騒ぎように少しばかり憤慨していたのです。報道を信じた人は、『数年後にはEVやFCが主流になる』などと思われるでしょう。決してそういうことはありません」と、現在の潮流に対して疑問を呈する。
そのことはたとえば、富士キメラ総研の2010年発表にあるように、2020年の世界の自動車販売数の90%以上は依然としてガソリン・ディーゼル車であると予測されていることからもわかる、と村瀬教授は捉えている。
(つづく)
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【※1 解説・ガソリンエンジンと熱効率】
ガソリンエンジンは、ガソリンと空気を適当な割合で混合した「混合気」をピストンで圧縮した後、電気火花で点火して燃焼させる。燃焼したガスは高い圧力でピストンを押し下げ仕事をする。燃料が持っているエネルギーのうち、どれくらい仕事に変換されたかを表す「熱効率」(=仕事/燃料が持っているエネルギー)というものがある。これを高くすることがエコロジーにつながる。ガソリン車の場合、これが20~30%と言われている。
ただし、この値は決して100%にはならない。高温の燃焼ガスから仕事を得る場合、その最大の熱効率は「カルノーサイクル」で与えられる。たとえば、燃焼ガスの温度が2,000℃、外気の温度が20℃の場合、理論的に得られる最大の熱効率は87%。また、エンジンにはいろいろな仕事領域がある。たとえば、アイドリング時は外に対して何の仕事もしていないためエンジン内の摩擦だけの仕事をしており、高速で坂を登るときは最大の仕事をする。
このように、エンジンはさまざまな回転数と負荷領域で仕事をしているわけだが、熱効率は回転数と負荷で変わる。とくに、ガソリンエンジンの熱効率は低速の低負荷時(発進時)が悪く、そこをモーターでアシストしているのがHV。車の減速時に、HVは車が持っている運動エネルギーを発電機で電気エネルギーに変換し、バッテリーへ蓄電しているから燃費が良い。これをエネルギー回生という。
<プロフィール>
村瀬 英一(むらせ えいいち)
九州大学工学研究院 機械工学部門 教授
自動車技術会理事、日本燃焼学会理事、日本機械学会フェロー
1981年、九州大学大学院工学研究科動力機械工学専攻博士課程修了(工学博士)。専門は内燃機関の燃焼で、エンジンシリンダ内のガス流動、点火・燃焼を主として研究。日本燃焼学会にて理事、自動車技術会ガソリン機関部門委員会にて前委員長、日本機械学会エンジンシステム部門で部門長を務め、内燃機関研究の代表として指揮を執る。
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