「次世代自動車」といえば、HV(ハイブリッド)、PHV(プラグイン・ハイブリッド)、EV(電気自動車)を筆頭に、水素を用いたFC(燃料電池自動車)など"エコカー"の開発が進んでいる。しかし、従来の"ガソリン・ディーゼルエンジン"の究極の省エネ化を重視する研究もある。
<第3のエコカー?高効率のエンジン技術>
3月の震災を経て、電気供給そのものへの危機感からEVはトーンダウン。ちょうどそこへ、マツダとダイハツが非常に燃費の良いガソリン車を発表した。
今年6月、マツダは次世代技術を取り入れた「デミオ13-スカイアクティブ」を販売開始。14.0という高圧縮比を実現した「スカイアクティブ-G1.3エンジン」を搭載し、10・15モード燃費30.0km/L、JC08モード燃費25.0km/Lを達成し注目を浴びた。また9月、ダイハツが「e:Sテクノロジー」を搭載した新型軽自動車「ミライース」を販売開始。軽ながら30km/LでHV車並みの高い燃費性能を誇り、79万5,000円からという低価格でサラリーマン層の支持を受けている。
こうした流れについて、村瀬教授は「エコカーとしてのガソリン車が現実味を帯びてきました。しかし今回も、やはりマスコミが『第3のエコカー』と騒いでいます。これは私にとっては嬉しいことではありますが、どれが良い悪いではなく、それぞれのメリット・デメリットを冷静に比較し、適材適所で活用していく方向性を打ち出していくべきです。エコカーに対する世論の偏りを、少しでもなくしたいと思って研究会をつくったのです」と語る。
ガソリンエンジンもここへきて、大幅な熱効率のアップが図られた。それが、マツダやダイハツの車などに採用されている新型のエンジンである。「どちらのエンジンも、とくに技術革命があったものではなく、従来の技術の延長です。とくにマツダの新型デミオに搭載された『スカイアクティブ』技術は、目を見張るものがあります」(※2)
ではなぜ、HVでけん引するトヨタでもなく、EVに注力する日産でもなく、出遅れ感のあった中堅メーカーのマツダやダイハツがこの技術を生みだせたのだろうか。村瀬氏は「マツダの関係者は『ある程度小さい会社だったからこそ可能だった』とおっしゃっていました。大企業は動かす組織も大きいので、なかなか粘り強く進められない面があるのかもしれません」と、組織面での機動力にその要因があるとする。
「今回の新技術は、もともと机上の論理としてはわかっていた話を、実際に実現できるかどうかでした。ほかの会社も、『やられた』と思っているのではないでしょうか。このエンジンが、たとえばHVに搭載されれば、HVの燃費はさらに良くなるでしょう。マツダでは、『この技術の延長で、今のHVぐらいまでの燃費レベルに行けるだろう』といっています。『しかし、そのときにはHVはさらに低燃費になっているでしょうね』ともおっしゃっていました」(村瀬教授)。
(つづく)
【※2 解説・次世代ガソリンエンジン】
圧縮比(回転につなげるピストンの上下運動におけるシリンダの最大容積と最小容積の比)を高くしたエンジンで、熱効率を従来の一般車の10~11を14にした。これは驚異的な数字とされる。なぜなら、圧縮比を上げると「ノッキング」という異常燃焼がつきまとうからだ。
高い圧縮比により、燃焼の後半においてガソリンと空気の混合気の温度が上がり、勝手に燃え始め(自己着火)、圧力波を伴う激しい燃焼が誘発される。この圧力波が、ちょうどドアをノックするようにエンジンの壁を叩く。ノッキングが起きると、2,000~3,000℃の火炎から金属を守っていた温度境界層が圧力波によりはがされ、直接火炎が金属に触れ、最悪の場合はピストンに穴が開くこともある。
従来の常識では、圧縮比14というのは必ずノッキングが起きてしまう領域だったが、マツダの場合、排気されないでシリンダ内に残っている高い温度の残留ガスを排気管の工夫でシリンダからうまく追い出し、圧縮初めの混合気の温度を下げる工夫やピストン形状の改良などでノッキング防止を実現したという。その結果、熱効率がこれまでの30%から一気に40%近くまで上がった。ちなみに、トヨタのHVプリウスは38~40%、ディーゼルエンジンも40%弱と言われている。
<プロフィール>
村瀬 英一(むらせ えいいち)
九州大学工学研究院 機械工学部門 教授
自動車技術会理事、日本燃焼学会理事、日本機械学会フェロー
1981年、九州大学大学院工学研究科動力機械工学専攻博士課程修了(工学博士)。専門は内燃機関の燃焼で、エンジンシリンダ内のガス流動、点火・燃焼を主として研究。日本燃焼学会にて理事、自動車技術会ガソリン機関部門委員会にて前委員長、日本機械学会エンジンシステム部門で部門長を務め、内燃機関研究の代表として指揮を執る。
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら