新年早々の2012年1月6日午前11時。(株)テムザック本社を取材で訪問した。駐車場には20台程度の自家用車が停まっていて、軽自動車も散見したが、個性のある高級外車が目立った。「長いあいだ給料遅配をしていたのに社員たちはどうしてこんなハイグレードなクルマが買えるのか」という、強い猜疑心が高まってきた。
同社の代表取締役CEOを務める高本陽一氏と新年の挨拶を交わした直後、私は「駐車場には、たくさんの驚くような高級車が停まっていますね」と皮肉交じりの言動を発してしまった。しかし、高本氏は、全く動じることなく、微笑みながら次のように説明してくれた。
「コダマさん!!2年ほど給料の遅配、延滞をしてきたのは周知の通りですが、昨年(11年)の夏に、その一部...3カ月分ぐらいですが、支払うことができたのです。その時に社員の皆さんたちは、ボーナスが転がってきたような気分になって、車を購入する決断に至ったのではないかと思います」。それを聞いて、私は己の至らなさを知り、赤面してしまった。
<3.11が全社員に改めてロボットの必要性を認識させた>
「高本社長!!もし、私が社員の皆さまに1日でも給料遅配を行なったとします。そうなれば、私には人望がありませんから、彼らは私に向かって『日頃は、エラそうなことを言っているが、能がないやつだ!!』と罵倒することは間違いありません。1カ月の給料遅配なら理解もできます。しかし、1年、2年と延滞していてどうして社員の皆さまは退職しなかったのでしょうか。この事態は、凡人である私の理解を超えています。もしやこれは、"高本教"という宗教団体でもないでしょうが――」。
この浅はかな愚問に対しても、高本氏は易しく説いてくれた。「社員のみんなはロボットが好きなのです。『世の中が必要とするロボットを造る』ことが我が社の理念です。この理念に共鳴してくれているから頑張ってくれたと考えています。ですが、もう甘えることはできません。もうメドが付きましたし、今後はそうならないようにします」。
11年3月11日の東日本大震災は社員全員を奮い立たせる機会になったという。たしかに、日本政府はテムザックのロボット使用という決断を下せなかった。だが、【災害現場や原発事故では我が社のロボットの活躍が望まれる】という強い確信を社員全員が共有できた。そして社員の士気が大きく燃えあがった。そこに、12期目にして初の黒字決算という朗報が飛び込んできた。
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