<奇跡に近い存続>
会社設立(2000年1月)から11期赤字をだしながら企業存続できたことに関して「これはまるで奇跡ではないか?」と、質問してみた。高本社長は「まさしく奇跡だ」と平然と答える。そして、存続可能であった理由には、(1)社員たちがロボット造りに使命感を燃やしてきたこと。(2)金融機関、取引先が辛抱強く待ってくれたこと。(3)宗像市、北九州市などが応援してくれたことなどをあげる。
同社の理念『ロボットで世界、社会に貢献する』を社員たちが固く信じていたことは大きい。いかなる試練の時期であっても動揺せず、ロボット造りに専念してきた。高本社長曰く「10年間の技術の蓄積によってようやく社会に役立つロボットを生みだすことができるようになりました。当たり前のことでありますが、そこでようやく売れだして12期目で黒字がでるようになったのです」となる。「コダマさんから『これは経営ではない』と叱られていた赤字垂れ流しから脱却できました」と、皮肉を込められたコメントもされた。
<11期の連続赤字の実体>
本稿下にある2010年12月期の決算書を参照されていただきたい。損益決算書でいえば売上1億2,801万1,000円に対して経常損失が1億3,232万1,000円である。売上よりも経常損失が上回るのだから「これは経営ではない」と酷評されても仕方がないところだ。さらに特別利益の項目では前期損益修正益などで4,094万2,000円計上されていたことで当期純損失は9,236万円となっている。
10年12月期を例にとって1期1億円赤字をだしたと仮定する。1億円×11(期)=11億円の累積赤字となる。ところが累積赤字は28億7,766万9,000円に達している。1年間で2億円以上の赤字をだしてきたのだ。この赤字の塊のうえに立ってロボットの研究開発に注力してきたのである。辛酸を舐め続けている最中、高本社長は奥さんをがんで亡くす家庭的な悲運にも遭遇した。
12期目でようやく時代がテムザックに追い付き、同社の技術力が社会に適合できるようになったことでようやく事業の成立に漕ぎつけた。技術ベンチャー経営者が体験する至難のドラマのすべてを高本社長が一手に背負ってきた。
そして何よりも同社の存続を可能にした最大の要因は、資本金の10億7,763万円という金額だ。これだけ資本金を集めていたからこそ11期連続赤字決算という事態から破綻への道を食い止められてきたのである。裏を返せば会社を設立する12年前から高本社長が構想するロボット技術に対して関係者は理解を示し期待を寄せていた証明でもある。だからこそ10億円超の資本金が集まったのであろう。その点では、まだまだ日本も捨てたものではないと思えるが、その後のフォローという点で、やり方を検討してやるべきではなかったか。「12年間も時間の浪費をすることはなかった」と、悔やまれる。
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▼関連リンク
・貸借対照表(22年12月31日現在)(PDF)
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