<第三の壁:原子炉圧力容器>
ペレット、被覆管はそれぞれ壁というよりも、機能面との両立でなりたっている。いわゆる壁というイメージとは少し違う防壁だが、ここから先は、まったくイメージ通りの壁である。
第三の壁、原子炉圧力容器は、まるで第二次大戦の戦艦の大砲のようなぶ厚い鋼鉄製のシロモノである。ペレットの集合体である燃料棒や制御棒をカプセルのように包む容器で、その鋼鉄の厚さたるや16センチ。これで漏れ出た放射線を封じ込めるという。
被覆管が破れてしまったときなど万一の異常の際には、この第三の壁から出るパイプを一切遮断して放射性物質の拡散を抑え込む。16センチの鋼鉄となると、戦車の装甲のようなイメージだ。まさに防壁である。
ただし、今回の福島では、この防壁も軽く突破されてしまったことを忘れてはいけない。燃料が冷却されなくなると、異常な高温状態になりジルコニウム合金(ジルカロイ)の被覆管が溶けて燃料が溶け落ちてしまう(メルトダウン)。高い融点のジルコニウムをも溶かしてしまう熱量をそのまま受けてしまっては、溶けて穴があいてしまう。それを防ぐ手立てはない。いくら厚みがあっても冷やすことができなければ、焼け石を発泡スチロールの容器に落とすかのごとく、ずんずんと下に落ちて行ってしまう(メルトスルー)。冷却系に致命傷を受けた場合には壁としての機能はなくなってしまうのである。
しかし、逆に言うなら、冷却系が致命傷を受けない限りにおいては壁として十分に機能するということだ。中性子によって脆くなってしまったり、放射線を含んだサビが出てしまうことも指摘できるが、それでも16センチの鋼鉄は通常ならば安心要素として挙げることができる。
メルトダウンした後、メルトスルーするにせよ、その間にはタイムラグがある。メルトダウン即メルトスルーではないのだ。ぶ厚い鋼鉄を突き抜けるのはたやすいことではない。突き抜ける間の時間稼ぎをしつつ、冷却系が復旧すればそれで閉じ込めは成功するのだ。この厚みを安心ととるか、やはり不安ととるかは読者各位の判断に任せなくてはならない。
つまり、放射性物質そのものや放射線を閉じ込める頑丈なオリは、平時のための備えとしては十分に機能するということだ。その上、この壁のさらに外側に2つの防壁が設けられている。なるほど、日本の原発は安全です、というにも一理あるわけである。
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