1号機北側と2号機の南西側の林から、5名ずつの工作員が上陸した。目標は原子炉。1号機2号機までは、それぞれ300メートルと200メートル程度の距離を移動しなくてはならない。装備が20キロ程度になるだろうし、周囲を警戒しながら進まねばならないため、その程度の距離とはいえ、移動には5~10分はかかってしまうだろう。逆に言えば、上陸を許してしまえば、目標接近までの時間はその程度の猶予しかないのだ。さらに加えるならば、見つかっても構わないというスタンスで南側の正門からトラックなどで強行突破したならば、もっと短時間かつ、もっと重装備で攻め入ることが可能だと思われる。
今回はドラマチックに海からの進入ということにしたが、時間的な猶予はほとんどないのだ。同時多発的に、長崎沖、島根沖あたりでわざと不審船を出して注意をそらせておくのも有効かもしれない。国土に与えるダメージの大きさから言えば、原発は要塞のように守られなくてはならないはずなのだが――。
上陸から10分、工作員は原子炉建屋にたどり着く。このあたりで、原発側も異常に気がつくかもしれない。原発管理者は県警や自衛隊関係に連絡を取るだろう。とはいえ、到着には時間がかかる。県警レベルならば10分もあれば何人かは駆け付けるだろうが、それでは完全武装の工作員を相手にするには力が足りない。自衛隊の到着はもう少し遅れるだろう。目的を達するには、十分な余裕が与えられることになる。
進入はドアからがよかろうか。プラスチック爆弾をドアに設置し、信管を差し込む。数秒の間をおいて小規模な爆発が起こる。ドアに数10センチの穴があき、進入が可能になる。ここから先は未知の領域だ。
原発のモデルによると原子炉圧力容器1つに蒸気発生装置が4つほどつけられているはずだ。圧力容器から蒸気発生装置に出ているパイプは、いずれも1次冷却系であるはずである。これを破壊してしまえば、中に満たされている放射性物質を著しく帯びた冷却水が漏れ出すことになるだろう。さらに、ECCS(非常用炉心冷却装置)がつながる管まで破壊されたならば、とりあえず冷却が機能しなくなる。加えて、圧力容器上部にある制御棒の挿入口も破壊してしまえば、炉は暴走を始めるはずだ。
ただし、圧力容器はぶ厚い鉄板でつくられているため、直接攻撃を加えても歯が立たない可能性がある。狙うのは、パイプの曲がっているところや継ぎ手など加工がなされている部分だ。高い圧力に耐えるために、やはりぶ厚くできてはいるが、曲げられている部分や継いである部分は、なかを流れる冷却水の水温差や水流、金属が均質になっていないなどの理由によって、クラック(ヒビ)が入りやすくなっている。内側にあるであろうクラックに向けて、外側から衝撃を与えるのだ。10割とはいかないだろうが、高い確率で破壊に至らしめることができるだろう。
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