蒸気発生装置につながるパイプの破壊は、すなわち通常の冷却ができなくなることを意味する。蒸気発生装置は、熱交換の最重要ポイントのひとつだ。核燃料が熱せられ続ければ、それ自身を溶かし(メルトダウン)、圧力容器、格納容器を溶かしながら地中の奥深くにまで沈んでいってしまう(メルトスルー)。その途中で、高圧のおかげで保たれていた液体の水が一気にすべて水蒸気に変わる。頑丈な建屋の中は高温の水蒸気で満たされ、最悪の場合は水蒸気爆発が起こって建屋が跡形もなく吹き飛んでしまう。そうならずとも、水蒸気が被覆管のジルコニウムと反応して水素を発生させて水素爆発が起こる可能性も高い。
通常の冷却ができなければ、その場合に備えて、非常用の冷却装置もある。ECCSだ。これがつながっているパイプも破壊してしまえば、いよいよチェックメイトとなってしまう。電源をすべて失うよりも、ずっと確実に機能不全に追いこむことができる。建屋の中は非常に濃い放射線で満ち、近づくだけでも決死の、本当の意味での「決死」の覚悟が必要になる。
さて、爆弾を設置した工作員たちは、作業員を複数名死に至らしめ、作業着を手に入れる。そして、混乱に乗じて低濃度放射性廃棄物(放射線を帯びたゴミ。通所、焼却などをして減容した後にドラム缶に詰められて保管される)のドラム缶置き場に進入、爆弾を設置して破壊する。目的は放射性物質の拡散だ。原子炉建屋が吹き飛んで、ドラム缶の中身がまき散らされる。これで"詰み"である。
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