<「黒い飛行機を世界の空に飛ばすんだ!」>
東レの研究者たちの心には、炭素繊維を、胴体や主翼、尾翼に使用した航空機を世界の空に飛ばすという目標があった。「黒い飛行機を世界の空に飛ばす」ということを合言葉に開発に臨んできた。炭素繊維の色である黒の素材が、主翼、胴体など航空機の材料となって、世界の空を舞うことを夢見てきた。
しかし、主翼、胴体などの一次構造材に採用されるには、炭素繊維の外部衝撃に対する強さが、その当時、金属より弱いという乗り越えるべきハードルがあった。ボーイング社の厳格な基準をクリアするには、それまでの炭素繊維では強度が足りなかった。
基準をクリアするために、研究を重ね、粒子層間強化プリプレグの開発に至る。樹脂の中に、粒子を散りばめることで、炭素繊維同士の層間を強化。粒子が、外部からの衝撃を吸収し、強い衝撃が加わっても、強度が落ちない技術の開発に成功した。
一次構造材に採用されるための課題だった、重ねた炭素繊維の層間剥離を防ぐことができた。この粒子層間強化プリプレグは、表面にひび割れができても、強度の低下が少なく、ボーイング社の厳格な要求基準をクリア。これにより、89年、炭素繊維複合材は、B777の尾翼と、補強材に一次構造材として採用された。それまで金属でしかできなかったことに、鉄の4分の1の軽さの炭素繊維が取って代わったことになる。それでもB777での採用率は、全体の12%にすぎなかった。
何度も飛行を繰り返すことで、「炭素繊維は航空機の素材として適している」ということが証明された。03年、ボーイング社とB787での一次構造材での使用に向け、共同開発に乗り出す。
B777で実績を積み、さらに安全性が確認されたことで、B787では、主翼、胴体など素材の50%(見えている部分のほぼすべて)に使用率が大幅にアップした。東レが炭素繊維の商業生産を始めて40年。11年、技術者たちが夢に見た炭素繊維の黒い飛行機が、世界の空に飛んだ。40年間、信頼関係を築き、ボーイング社のハイレベルな要求に技術で応えてきたからこそなしえたこと。その背景には、長期を見据えた経営判断の的確さもあった。「この事業をモノにするんだ!」という強い意志と、利益の出ない時期にもあきらめなかった粘り強さが、花開いた。
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