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SNSI中田安彦レポート

BNPパリバとフランス金融エリート(前)
SNSI中田安彦レポート
2012年7月10日 15:41
SNSI(副島国家戦略研究所)研究員 中田 安彦

 フランスという国は、「エリート官僚」が統治する国である。独自に高等専門教育機関であるグランゼコールを擁し、富国強兵を行なう歴史を持つこの国では、理工系と文化系のゼコールを経て、官僚機構で経験を積んだ後、関連の企業(国有民営)の経営陣に「天下り」することで独自の産業政策が実施されてきた。金融機関もその例外ではない。最大のBNPパリバとそのライバルたちを戦後動かしてきたキーマンたちを通じて、フランス金融資本の実像が見えてくる。

 「フォーブス」によれば「フランスの5大金融グループ」は、『BNPパリバ』、保険の『AXA(アクサ)』、『ソシエテ・ジェネラル』、『ナティクシス』、そして『クレディ・アグリコル』であるという。そのうち、首位のBNPパリバは、現在も国が15%を保有する筆頭株主である国有銀行である。
 これらの銀行の経営陣たちは、金融危機を境に代替わりをしたが、現在は1960年台生まれが登場している。仏大銀行の経営陣のほとんどすべてが、官僚出身か、官僚養成機関であるエコール・ポリテクニーク(EP)か、国立行政学院(ENA)で学んでいる。

 たとえば、現在のBNPパリバCEOは、ジャン=ローラン・ボナフェ(1961年生)という人物であるが、理工系のEPを出た後、仏の経済産業省に当たる官庁で鉱業や産業再配置や外国貿易の実務をした後で、BNPに天下っている。同行のボードワン・プロー会長(51年生)も、名誉会長のミシェル・ペブロー(42年生)も、ENAやEPの一方か双方を出ている。
 これは他の金融機関でも、ほとんど実情は同じだ。戦後まもなく仏大銀行は国有化され、大銀行は戦後の一定の期間を占めた社会党政権の時代だけではなく、保守党政権においても1980年代末になるまでは政府の管理下にあり、フランス独自の産業政策を実現するための道具となっていた。大手行トップの経歴を見れば、それが人事の面からもわかる。

 そもそもフランスの大銀行は、設立して以来、常に政府によって育てられてきた。
 BNPパリバは、パリ国立銀行とパリ銀行の後身のパリバが合併して、2000年に設立されたものである。前者の母体となるCNEPという略称で知られる国立パリ割引銀行は、"仏二月革命"のあった1848年に設立されたが、1880年に一度経営危機に陥った際に、フランス中央銀行によって救済されている。
 もう1つの母体であるBNCL(国立商工業銀行)は、1932年に成立したCNEPとあわせて、第二次世界大戦後の1945年にはまとめて国有化されている。これは、民間人であるロスチャイルド家とフランスの電力産業で今も名前を知られる、シュネイデル・グループなどの金融家が設立した産業金融を行なっていた民間のソシエテ・ジェネラル銀行も同じである。このときの大銀行の一斉国有化によって、フランスにある全銀行の半分が影響を受けた。ただし、すべての銀行が国有化されたわけではなかった。パリバの前身となるパリ・オランダ銀行(Banque de Paris et des Pay-Bas)は、純粋な商業銀行だったという理由を駆使して、国有化を免れて経営の自由度を確保している。
 また、フランス国内ではインフレ抑制のために融資上限額に規制が設けられていたので、両手を縛られた大銀行としては収益源を国外に求めるしかなく、60年代になって登場したロンドンなどでのオフショア取引が行なえる「ユーロカレンシー市場」に目をつけた。

 フランスの産業政策に基づいて、CNEPとBNCLが合併したのが66年のことで、以後、パリ国立銀行(Banque Nationale de Paris、略してBNP)と呼ばれるようになった。2年後には、パリ・オランダ銀行はCompagnie Financière de Paribasに名称変更している。社会党のミッテラン政権によって、再度主要産業の国有化を行なったが、このときはパリバも影響を受けた。ソシエテ・ジェネラルは10%強の株式を政府が放出していたが、これもご破算になった。

(つづく)
【中田 安彦】

| (中) ≫

※フランスの「ゼコール官僚出身」の金融エリート
<BNPパリバ>
ミシェル・ペブロー(1942年生)現名誉会長
ジャン=ローラン・ボナフェ(61年生)現CEO
ボードワン・プロー会長(51年生)現会長
<アクサ>
クロード・べべアール(1935年生)アクサ名誉会長(BNPパリバ社外取締役)
アンリ・ドゥ・キャストリ(1954年生)現会長兼CEO(現ビルダーバーグ会議議長)
<ソシエテ・ジェネラル>
ダニエル・ボートン(1950年生)前会長、前CEO
フレデリック・ウデア(1963年生)現会長兼CEO

<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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