<S社の業績ダウンを恐れてN社は売却を急ぐ>
前回、「社員一人一人が胸算用する」と記述した。土木部の社員たちは貢献度合いに応じたボーナスの要求をするようになる。2011年夏季賞与は世間並みと言わずとも支給した。しかし、土木部の社員たちには不満が残った。
「我々の収益で建築部門の連中を食べさせている」という気持を抱いたのではないか!!
社員たちは、紫原氏がN社に対して「社員への利益還元率アップ」について強い交渉してくれるのを期待していた。どの程度の交渉をしたのか判明しないが、N社の経営陣の頭に「社員たちへの利益配分のことなど欠片もない」のは当然のことである。「どれだけ高く転売すること」にしか眼中にはない。
N社の立石社長をトップにした経営陣たちは先行きを憂慮した。「期を追うごとに人件費は膨れる。ボーナスも増やすことにもなろう。また建築部門で今後、収益をあげることは難しい。そうなると一見、利益がでる最中に売り逃げしないと投資家へ顔向けができない」と分析したのではないか。冒頭に述べたS社の転売を決定したのが、最終2011年9月頃ではなかったのか。9月あたりで2012年6月期の大方の見通しがつくからだ。
さーてと、2012年6月期の10カ月(4月末)の試算表を点検しよう。10カ月の完工高は77.7億円である。あと2カ月の追い込みとなるが、内部の証言によると「100億円到達が精一杯」となる。税引前利益が8,800万円であるから年率換算すると1億円をどうにか超える水準にはある。2011年6月期と比較して2012年期は若干の減収減益というところであろう。N社としては「勢いを失くしたところでは利益×6年分の方程式が通用できなくなる」と危惧を抱いたかは定かではない。だが「ギリギリの最後の売り逃げ時期」と判断を下したのは間違いなかろう。
紫原さん!! 社員達のことを一片だに考えた事のない会社転がしの輩に感謝されている御気分はいかがですか。
この試算表をみてあらためて土木事業の役割に気づいた。10カ月の試算表によると完工高は22.1憶円で28.4%を占めている状況だ。対して収益面、粗理面では3.4億円を捻出している。粗利総数7.8億円に対して43.6%に達するのだ。収益部門は土木部門の売上に対する貢献の倍になる役割を果たしている。収益の馬鹿にならない貢献である。
現在、土木部門の人材が退社しているようだ。地味ではあるが土木部門の会社への収益への貢献は捨てがたいものである。この部門を蔑ろにした罰を被ることになる。
<紫原さん!!S社は誰でも経営できるぞ!!>
建設業を営んだ経営者であり幹部経験をした読者であれば、S社の2012年4月末の試算表を参照すれば異口同音に次のような評価を発するであろう。「凄いじゃないか!! 素晴らしい経営内容だ。S社の財務内容に誤り、誤魔化しがないのであれば経営委託を受ければ俺でも充分に運営できる」
まったく心配はありません。粉飾に関してはあり得ません。会社転がしのN社が一番、怖いのはコンプライアンスの問題です。粉飾操作をしていたとするならば投資家達から刺客を飛ばされますよ。この点だけは嘘偽りはない。
資産勘定から見ると現預金が16億円ある。無用な不動産・商品がまるでない。破産貸出債権の2.3億円に対しても1.8憶円の貸倒引当を積んでいる。4月末に短期貸付金が7.7億円が発生しているが、これは普通、疑念科目と呼ばれるものだ。であるが、オーナー大川社長のことである。S社への先行投資事業に活用しているのではないか!! 我が才覚・腕一本で事業を行ってきた経営者だ。凡人が考えられない事業プランを練っていることであろう。
負債勘定をみても支払手形12.6億円、工事未払い金9.2億円で合わせて21.8億円、プラス長期借入1.4億円の総計で23.2憶円になる。対すること、流動性資産の項目をピックアップすると現金預金が16億円、受取手形が1.4億円、完成工事未収入金2.7億円とすべてを足すと20.1億円になる。長期負債を除く流動性負債科目が21.8憶円、流動性資産が20.1憶円であるから差額が1.7憶円になる。当面の支払い不足1.7億円という数字が表にでるが驚くことはない。大川オーナーも、そこは想定内のことである。
新オーナー大川氏がS社を買収する以前の、例えば2011年12月の試算表を注視すると前記した通りに建設業の経営に携わった人であれば、誰でもが「御馳走様!! S社の経営を引き受けます」と行動に移していただろう。
紫原さん!! 「S社は破れかぶれの会社でなかったこと」は貴方が一番、認識していたはずだ。もう深く反省していると思う。【企業転がしの貪欲なN社】の立石社長は紫原第二次政権を組閣する際から「紫原という男は組み安し」と睨んで指名したのですよ!! これは筆者だけの見解でありません。S社の社員・OB達に聞いてください。まさしくピエロ役を演じたわけです。
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