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第2期オバマ政権 漂流するアジア戦略・TPP(後)
未来トレンド分析シリーズ
2012年12月 1日 07:00

 意外に思われるかもしれないが、ヒラリー・クリントン国務長官は、個人的な意見と断りながら、「中国がTPPに参加することを強く願っている」と話している。しかし、中国にとっては、アメリカが押し付ける様々な条件は極めて高いハードルと受け止められており、国営企業の特殊な体質も含め、にわかにこの協定に加わることは難しい状況である。要は、飲めない条件を提示することで、中国の抱える問題点を内外に宣伝しようというのがアメリカの戦略に違いない。

earth.jpg 先に紹介したドニロン氏によれば、「TPPは現在の国際的な貿易システムにおいて、最も意味のある交渉」とのこと。とはいえ、多くのアジア諸国にとっては、中国を締め出す形でのTPPは物流やサービス、投資といった面で、意味のある交渉とは受け取られていないようだ。
 そのため、オバマ大統領も出席したカンボジアでのアジア各国の首脳会議において、オーストラリアやニュージーランドを含め大半の首脳たちの間では、TPPよりRCEP(アールセップ)と呼ばれる「域内包括的経済連携」の設立に期待する声が大きかった。実際、このRCEPには、日本や中国、インド、オーストラリアを含む16カ国が関心を示しており、ワシントンが進めているTPPよりはるかにアジア諸国にとっては魅力的な貿易協定と受け止められているようだ。
なぜなら、アメリカ主導のTPPが「すべての関税撤廃を原則」としているのに対し、RCEPの基本方針は関税の撤廃を目指すものの、「参加国の個別かつ多様な事情を認識しつつ」という条件がついているからだ。当然、日本にとっても、後者の方が交渉を有利に展開できるメリットが大きい。

 ASEANの事務局長を務めるスリン・ピツワン氏は「日本も大変協力的であり、中国も同様だ。加えてオーストラリアも熱心に推進役を務めようとしており、インドも極めて前向きである。ということは、アジア太平洋地域の国々にとっては、このRCEPこそが、将来を託するには相応しい貿易協定と認識されている」と述べているほどだ。こうした動きが生まれてきていること自体、アメリカの影響力が明らかに低下してきていることの裏返しであろう。TPPに関しては第15回の事前協議が12月3日から12日までの予定でニュージーランドのオークランドで開かれる。しかし、合意形成は難航している模様だ。

 そうした危機感の表れであろうか、オバマ政権は流れを変えるために、これまで以上にアジアとの関係強化に取り組む姿勢を見せている。その象徴的なアプローチがミャンマーに対する経済制裁の解除と、アウン・サン・スーチー女史を支援することで、ミャンマーの民主化を加速させ、中国の影響力を最小化しようとする一連の動きだったのである。
 アジア各国は中国との経済的関係強化を望んではいるものの、同時に中国の軍事的影響力の拡大には警戒感を抱いている。そこにこそ、アメリカは自らのアジア関与の突破口を見出そうとしているに違いない。

 また、アメリカの企業にとっても、政府の支援を最大限に活かし、アジア進出への橋頭堡を確保しようとしているわけだ。これまで、経済制裁の煽りを受け、アメリカ企業はミャンマーへの進出に際しては制限を受けていた。しかし今回のオバマ大統領の初訪問の結果、コカコーラやペプシといった飲料メーカーは再参入することが認められるようになり、マスターカードやVISAもミャンマーの銀行との業務提携が認可される方向で話がまとまった。

 そして最も大きな進展は、コノコ・フィリップスやシェブロンといったエネルギー企業がミャンマーの資源開発に参入できるようになったこと。これまで中国が圧倒的な存在感を誇示してきたミャンマーにおいて、アメリカが新たな対抗馬として参入することになり、今後のアジア市場における中国とアメリカとの覇権争いは加速していく雲行きである。
 中国と日本との間で、尖閣諸島を巡る外交問題が影を落としているが、アメリカは日本を同盟国として位置付けているにもかかわらず、「領土、主権に関する問題には介入しない」
 という原則を盾に、表向きは日中間の問題には介入しない姿勢を示している。アメリカといえども、中国との全面的な対立に発展しかねない日中間の紛争事案には二の足を踏んでいるように思われる。

 どうやらアメリカのアジア戦略にはまだ確固とした地盤が築かれていないことだけは明らかである。日本としてはこうした国際環境の変化のなかで、漂流し始めているアメリカの世界戦略の行方を冷静に見極め、国益を損なわぬ対応を探る必要があるだろう。

(了)
【浜田 和幸】

≪ (中) | 

<プロフィール>
浜田和幸氏浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。


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