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アベノミクスの効用と限界(後)~政治経済学者・植草一秀氏
政治
2013年6月 7日 07:00

<5月まで経済好転が観測された理由>
 金融市場の大きな変動がもたらされた大きな背景が2つある。第1は、アベノミクスに円安を誘導する要因が含まれていたこと。第2は、経済政策運営上の基本スタンスが前政権の野田・菅両政権から大きく転換したと見なされたことである。前者は金融政策の変化、後者は財政政策の変化によるものである。成長政策は6月5日にも第3弾の発表があったが、現段階では「お題目」の域を出ていない。6月5日などは、安倍首相の講演直後に日経平均株価が700円も急落したほどである。

 2011年以降、日本の株価は円ドルレートと完全に連動する推移を示してきた。円高が株価下落を、円安が株価上昇を引き起こしてきた。このなかで、安倍政権は金融緩和政策の強化を強く訴えた。そのために、安倍首相は日銀幹部を安倍氏の考えに近い者に入れ替えた。日銀の独立性を抑制する方針も示唆され続けてきた。
 メディアはこれを「異次元」金融緩和とはやし立ててきたが、一種の連想ゲームのメカニズムによって、日本の長期金利が低下し、急激な円安が発生した。株価は為替に連動するから、このために急激な株高が生じたのである。

kabu.jpg 他方、財政政策では、菅政権と野田政権が財務省路線に浸かり切って、増税まっしぐらの「財政再建原理主義」政策を採用したのに対して、安倍政権は、最初に大型補正予算の編成に進んだ。増税を実行する前に、経済の浮揚を図る姿勢が示され、これが株価上昇の一因になったことを否定できない。
 日本の株価は、株式の益利回りと債券利回りとの適正な格差を基準に評価すると、理論値よりもはるかに低い水準に位置していた。財政再建原理主義の政策運営スタンスが、経済心理を著しく冷却化させていたからだと思われる。

 安倍政権の大型補正予算編成は、この冷却化した経済心理を温める効果を発揮した。その変化にともなって、株価が上方に水準修正したのだと判断できる。

<アベノミクス材料出尽くしの懸念>
 しかし、いわゆるアベノミクス効果は出尽くしてしまった感が強い。「異次元」金融緩和は金利低下をもたらし、円安と経済好転、さらにインフレ率上昇をもたらすとされてきたが、このストーリーが早くも綻びを示している。

 黒田総裁の新体制日本銀行が、新たな金融政策を打ち出したのは4月4日だ。ところが、この4月4日を境に、日本の長期金利は低下するどころか、上昇してしまっている。5月になって円ドルが100円を超えたのは、日本金利が低下したためではなく、米国金利が上昇したからである。つまり、非アベノミクス効果でドル高が生じ、これに連動して株価が上昇しただけなのだ。
 また、財政政策は大型補正予算編成から一転して、超大型増税に突き進むことが予定されている。財政政策運営も、経済浮揚から経済抑圧にベクトルの方向を変えてしまう懸念が強い。
 さらに厄介な問題は、米国が金融緩和政策を縮小する場合に、米国株価が大幅に下落する恐れを有していることだ。

 昨年11月から本年4月までの経済好転をもたらした基本背景が、全体として消滅し始めている。そもそも、中央銀行の独立性を抑圧してインフレを誘導しようとする政策が邪道である。バラマキ補正予算と超大型消費税増税の組み合わせもちぐはぐである。

 参院選を控えて、安倍政権が消費税増税の先送りを示唆する可能性もあるが、普通の政策の域を出ない「アベノミクス」に過剰な期待を寄せる愚は、避けるのが賢明と言えそうだ。

(了)

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