<どこでも働ける「国際ノマド」を目指せ!>
前回は、暴走とも言える政府の産業競争力会議や文科省などの「グローバル人材」育成計画の方向性に疑問を投げかけた。
これからの若者は、「グローバル人材」になるかどうかは別にして、間違いなく、文化はもちろん、政治、経済、宗教が異なる国際社会の中で生きていかなければならない。狭い"ナショナリズム"にがんじがらめになっていれば、問題の解決はできない。では次の一手はどう打てばよいのか。学生、若者が内向きになってしまったので、とりあえず、湯水のごとく国費(血税)を使い、「留学等を促進させよう」では、何の解決にもならない。
パリに住む国際経営コンサルタントで、日・欧の「グローバル人材」事情に詳しい筆者の知人はヒントを与えてくれた。
「日本は人口が減り、経済も急成長は望めず、穏やかな成長になっていきます。これからの若者の活躍の場が、アジア、アメリカ、ヨーロッパとどんどん拡がっていくことも確かです。外に出ていかなければ仕事に就くことは難しくなる時代は間違いなくやってきます。地球を股にかけて「国際ノマド」ができるぐらいのたくましい、知力・体力・精神力が必要になってくるのです。
実際、私の住むヨーロッパでも、大学、大学院を卒業したばかりの若者の間で、その現象が顕れています。例えば、景気の良いドイツに、イタリア、スペイン等の国々から、知識労働者が大量に流入しています。さらに、ドイツを含めたヨーロッパ全体から、オーストラリア、アセアン、中国、中東方面へ、知識労働者が大量に移動しているのです。
国を股にかけて働くことを前提にした場合、日本での大学の成績はほとんど役に立たなくなるかも知れません。英語などの外国語も大事ですが、自分の考えをしっかり持って、これを伝え、人の話を聞き、議論できることが求められてきます。本質的、実質的な総合コミュニケーション能力です」
「フランスに住んでみると分かるのですが、本当に"十人十色"なのです。"空気を読む必要がない"ではなく、"空気を読んではいけない"のです。すべて、言葉で伝えなければ誰も理解してくれません」
「私が、今一番日本の学生、若者に伝えたいことは、海外に行くことによって拡がる可能性の大きさや異文化社会で生きることのメリット、デメリットを自分自身で認識する必要があるということです。日本の学生、若者には、"たくましく、いつでも、どこでも働ける"「国際ノマド」目指してほしいと思っています」
<英、米以外の国への留学生は増えている!>
最後に少し面白い話をしたい。2010年に海外留学した日本人は58,060人(OECD統計)で、6年連続で減少している。ただし、この10年間の動向を国別に見ると、減っているのはアメリカ、イギリス、オーストラリアなどほんの一部の国への留学者数だけで、その他の国への留学者数はむしろ増えている。大きく増えているのは、韓国16.0%、中国9.1%、台湾7.5%、カナダ4.6%などである。ちなみに、中国人のアメリカ留学の多さはよく知られているが、今、アメリカ人の中国留学も激増しているという。
海外留学者数の減少に関しては、日本における就活の問題、英語力、不況、企業留学の減少、若者の内向き指向、若者がアメリカから学ぶ魅力を感じない、留学そのものに魅力を感じないなどさまざまな理由が取りざたされている。
しかし、世界の一般常識から考えると、以上の理由は、全て"とってつけた"ような感じがする。もっと単純に考えれば、いつの間にか、学生、若者の「ハングリー精神」とか「競争心」というものが眠ってしまったからに過ぎないのではないのか。もし、そうだとすると、現在の政府の「グローバル人材」育成計画では成果を出すことはとても難しいのではないだろうか。
【注】
ノマド(nomad)は、英語で「遊牧民」の意味。近年、IT機器を駆使してオフィスだけでなくさまざまな場所で仕事をする新しいワークスタイルを指す言葉として定着した。このような働き方をノマドワーキング、こうした働き方をする人をノマドワーカーなどと呼ぶ。
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<プロフィール>
富士山 太郎 (ふじやま たろう)
ヘッドハンター。4,000名を超えるビジネスパーソンの面談経験を持つ。財界、経営団体の会合に300回を超えて参加。各業界に幅広い人脈を持つ。
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