<足場固める水ビジネス、国際貢献の新たなるかたち>
――アジアや世界を意識した市政運営をなさっていますが、世界と戦うもう1つの武器である「海外水ビジネス」の現状はどうでしょう。
北橋健治氏(以下、北橋) 本市が全国の自治体に先駆けて発足させた官民連携組織「北九州市海外水ビジネス推進協議会」の立ち上げが2010年8月でしたから、本格的に海外水ビジネスに乗り出して丸3年が経ちますね。協議会を中心とした活動の結果、これまでに基本設計などのコンサルタント業務を上下水道合わせて9件受注しました。当面の対象は、カンボジアやベトナムのハイフォン市、インドネシア、中国の大連市といった都市ですが、その多くがこれまで本市と友好関係や信頼関係を築いてきた都市です。というのも、これらの都市とは、1990年に始まった上下水道技術の国際協力を背景とした長年の信頼関係が築かれていました。海外水ビジネスの滑り出しにあたり、これらの都市を対象としたのも、こうした事情があったからです。
――相手がこちらの技術力を知っていればこそ、交渉もスムーズだったのですね。具体的な実績を積み、そろそろ「当面の対象」から踏み出す時期でしょうか。
北橋 今年の5月30日、ベトナム・ハイフォン市水道公社が市内浄水場への導入を決定した「上向流式生物接触ろ過設備(U-BCF)」が着工されました。これは本市が国内特許を持ち、現在も採用している高度浄水処理設備で、微生物による自然浄化作用を利用して安全でより良質な水をつくる設備です。当該設備の設置工事も協議会会員企業の現地法人が受注しましたし、何よりも、本市とハイフォン市水道公社との間で「ベトナム国内へのU-BCF普及に向けた相互協力協定」を結んだことは、大きな収穫でした。
ハイフォン市とは、以前に「上下水道整備に係る包括協定」を結んでいたのですが、今年5月の協定は、「U-BCF」という技術をベトナム全土に展開する意味で、今後の可能性を持った内容と言えます。カンボジアでは「主要9都市の水道基本計画策定に係る技術的コンサルティング業務実施の覚書」(2011年12月)を交わしていますし、公的部門による覚書や協定はこれで計3件になりました。また、昨年4月に国土交通省から「水・環境ソリューションハブ」のAAA(Alliance Advanced Agencyの略。「国際展開における先進的な地方公共団体」の意)の登録を受けたこともあり、国内においても水ビジネスの国際戦略拠点づくりが進んでいます。
――見えてきた課題や今後の展望なども、お聞かせください。
北橋 将来的には、施設の設計・建設から管理運営までを含んだワンパッケージ型の案件を手がけたいですし、都市全体の開発のなかでの上下水道整備にも進出したいと考えています。そのために欠かせないのが、推進協議会の会員企業の充実です。とくに、地元企業が多くのビジネス案件に関与できるための仕組みづくりや支援こそが、重要な課題と言えるでしょう。
もう1つ忘れてならないのは、国際貢献の視点です。前述のように、本市は従来、国際協力として途上国に技術移転を行なってきました。上下水道のような相手国の望む技術について、今後はビジネスを通じても提供していきたいと考えていますが、これはあくまで「国際貢献の延長上」のビジネスであるべきです。国が今年6月に打ち出した「日本再興戦略」のなかでは、インフラ輸出の戦略的取り組みが、アクションプランの柱として位置づけられていますし、本市の海外水ビジネスも、まさにこの戦略に寄与するものと言えます。国際技術協力で培った信頼関係を大切にしながら、民間の力とともに現地の生活水準向上や産業インフラ整備のお手伝いをすることで、相互にWin-Winとなる関係をつくらねばなりません。
――本稿では、主に「環境」や「産業」に関わる分野のお話をうかがってきました。最後に、今後への意気込みをお願いいたします。
北橋 国際的な競争時代において、アジアの中核的な産業都市として持続的な発展・成長を目指していくには、新成長戦略を軸に、産学官と市民が一丸となって取り組むことが何よりも重要です。21世紀のキーワードとも言える「環境」は、人類共通の課題となりつつあります。これを解決する成功モデルを実現し、国内外に普及展開してともに成長することこそ、本市が示す将来への道標です。実現のために、全市一丸となって取り組んで参ります。
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<プロフィール>
北橋 健治(きたはし・けんじ)
1953年3月生まれ。86年7月に衆議院議員に初当選。以来、94年に大蔵政務次官。96年運輸委員会筆頭理事。98年衆議院環境委員長。99年大蔵委員会筆頭理事。2005年地方制度調査会委員。06年行政改革特別委員会筆頭理事などを歴任し、07年2月に北九州市長に初当選。現在、2期目。
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