福岡県飯塚市に本社工場を構え、鋼製型枠の設計と製作を手がける(株)カシマ製作所。従業員はわずか6名と小規模ながら、創業以来蓄積されたたしかな技術と思いやりで、激変淘汰の時代を生き抜いている。同社代表取締役の鹿島克介氏に話を聞いた。
<技術はたしかだが>
同社は地元福岡の鋼製型枠の分野では、草分け的存在だった。父親は腕が良く、九州では名が売れていた。鹿島克介氏は早くして家業を継いだが、20歳で父親の会社を飛び出した。さまざまな仕事に就いたが、ものづくりの魅力が忘れられず同業の別会社に就職。その後、家業に戻り、初めて自社の借金の多さに気付いた。父親は根っからの職人で、経営については素人同然。もらってくる仕事は原価割れしているものが多かった。
「数字を見つめて、経営を見直さないと・・・」と思うものの、自分も経営のことはよくわからない。どうやって父親をサポートしていけばいいのか。
試行錯誤して、2010年に独立。思うように利益が上がらず、悩んでいたときに倫理法人会や中小企業家同友会など経営者の組織に入って、経営を学び始める。それから改善が始まった。
<心に刻まれた父親との会話>
リーマン・ショック後の話だ。その頃、仕事がなく、あっても採算が合わないことを承知のうえで受注していた。ある日、現場からの帰りだった。助手席には父親。車窓から見えるIT企業の広告を見ながら、父親は「俺も他の仕事ができたらなあ。でもこれしかできないからなあ」ともらした。
この一言が、今も鹿島氏の心に刻まれている。「ただただ悔しくて・・・」と、そのとき決意した。「職人たちが志を持って、仕事ができる環境の整った会社にしよう」と。
<思いやりが成功を呼ぶ>
試行錯誤を重ね、現在、自社の強みを生かす経営はできていると自負する。ミリ単位の品質、後工程を考えた製品づくり。常に考えるのは、「この型枠を使って作業をする人の身になって製作しよう。作業効率が良いものが必ず選ばれる」ということ。
残念ながら、この想いはゼネコンのトップには伝わらない。同社と現場作業員の心の中でしか、通じない。でも、それを重視する。
思いやりから生まれた製品がある。「特許出願中 カシマ式主筋受ジグ」だ。作業現場ではコンクリートが固まって、型枠を外す(脱型)ときに時間がかかることが悩みだった。そこで、このジグを開発。通常はリング状のゴムをはめるのだが、このジグを使用することで脱型作業がスムーズになる。これは型枠製品ではないが、この道具を無償提供する代わりに、型枠の仕事をもらえるように交渉し、成功が続いている。「つけにくい、はずしにくい」という現場の職人の声を拾って、かたちにする。みんなで知恵を絞って研究開発し、やっとたどり着いた。まさに、後工程のことを考えた思いやりの商品である。
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