無尽とは、相互掛金による庶民金融のことで、我が国独自に発展してきた制度だ。現在でも親睦的な意味合いで、金を積み立て宴会や旅行を行ったり、抽選や順番で金額を総取りする形態などとして残っているが、庶民金融としての無尽、あるいは無尽会社という言葉にはピンと来ない読者も多いと思う。少々回り道になるが、無尽について簡単に触れておきたい。
我が国で貨幣経済が進むのは12世紀半ば以降、中国（宋）から多量に銭貨が流入してからだ。庶民に浸透し、鎌倉幕府や朝廷も使用を公認するようになる。貨幣としての役割は、それまでの米や絹・布（麻布）から銭貨に集約され、年貢を物品では無く銭貨で収めることも13世紀以降一般化した。
ところで、古来より日本では貧富者を適当に組み合わせて五人組を作り「田実（たのみ）＝米」を平等に出し合って村役所に預け、なにかの理由で困った時にこれを出し与えるという制度があった。頼母子（たのもし）の語源である。貨幣経済の浸透により、米は銭貨に置き換えられる。また、寺社仏閣に参詣する団体＝「講」は、各人がお金を出し合って維持修繕費や建立費を拠出する役割を持っていた。頼母子と講が結びつき、頼母子講と呼ばれるようになる。
無尽とは仏教用語に由来し、「くら」と呼ばれる質屋が、典物（質物）を預かって金を貸し付ける利息付きの金銭貸与のことを指して使われていた。
原始的共済組合であった頼母子講にはやがて営利を目的とするものも現れる。「金を用立ててもらい、利息をつけて返済する」という事象においては同じため、室町時代になるとこれらが混同され、無尽講、あるいは単に無尽と呼ばれるようになった。
こうして中世以降庶民金融として発達していった無尽、あるいは頼母子講の中には、江戸時代には投機的、あるいは賭博的な性格を持つものまで現れる。このため幕府による禁止令が出されこともあった。明治以降、外来金融機関である銀行が我が国でも設けられるが、銀行から融資を受けることができない庶民が利用する金融機関として、近代的営業無尽が企業化されるようになっていった。
この無尽会社は明治40年代以降急激に増加し、当時の大蔵省の調査では、1914（大正３）年の時点で業者は全国に831、契約総額は１億3,760万円におよんでいた。このほかにも多数の業者が実態としてはあったようである。大半が基礎脆弱であったり、手数料などの名目で取得する金額が多すぎたりといった問題を抱えていた。
このため加入者が損害を受けることも多々あり、これを取り締まる目的で1915（大正４）年、「無尽業法」が成立し、免許制となった。
厳しい制限が設けられ、1916（大正５）年末には業者数が136まで急減するが、その後再び増加に転ずる。それだけ、庶民金融としてのニーズが高かったということだ。制限の緩和もはかられ、1924（大正13）年には227にまで達している。
さて、日本では第一次世界大戦による好況が終わりを告げても世の投機熱は冷めることがなかった。日銀は1919（大正８）年に２回に渡り大幅な公定歩合の引き上げを行ったがブームは衰えず、これを危惧する声があがるようになっていた。
1920（大正９）年３月15日に兜町と北浜、東西の株式市場は大暴落する。四島一二三・カツミ夫妻が結婚した年だ。これ以降長い反動不況が訪れる。このあおりを受け同年には約70行、1922（大正11）年にも数十行の取り付け騒ぎが起きた。
政府は全国に2,000以上あった普通・貯蓄両銀行の統合に本腰を入れ、1926（大正15）年にかけて１割を超える228行が減少している。
当然のことながら零細業者や庶民にも余波は及び金融情勢は逼迫した。福岡でも新たな無尽会社設立の必要性が高まる。これに呼応し、1923（大正12）年の前半頃、もと大正鉱業の斤先堀（採掘請負業者）の経営者で、伊藤伝右衛門とも親交があった林真一という人物を主唱者に、福岡無尽株式会社の設立が企図されることとなった。
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