九州全体を網羅する軌道。その主役と言える存在が九州旅客鉄道(JR九州)だ。国鉄の分割民営化にともない生まれた同社は、当初より鉄道事業での苦戦が予測されていた。そんななかでも営業段階で利益を計上するに至り、現在も株式上場に向けて努力を重ね続けている。JR九州の行動から見える企業目的は、まさに「九州浮揚」である。地域を活性化させて人の動きを生み出し、鉄道業を守り続ける。その陰には多くの工夫と努力が払われているようだ。
<九州の魅力を最大限に堪能できる「ななつ星in九州」>
その集大成とも言えるのが、「ななつ星in九州」である。2013年10月に運航を開始したななつ星は、これまでの観光列車の集大成と位置付けられている。豪華な車両で、一部の隙もないサービスを提供するクルーズトレインだ。ななつ星は九州の7つの県と九州の自然・食・温泉・歴史文化・パワースポット・人情・列車を意味し、そのすべてを移動も含めて楽しみながら堪能することができるのが特徴だ。博多駅には専用のラウンジが設けられており、そこでの待機時間ですら優雅に過ごせる仕組みがとられている。豪華を極めた車内は九州各地の技術が結集されており、その机、椅子、壁、床、すべてが洗練された上質感を帯びるデザインだ。投下した資金は30億円。一コンセプト列車に充てるには大きすぎる出費である。そのうえ、用意されている客室は14室。最大乗客数は30名。
少し計算してみよう。8~11月の間に2泊3日と3泊4日がそれぞれ7本ずつ運行を予定されている(第四期)。4カ月で2泊と3泊がそれぞれ7本、ということは年間21本ずつ。2泊は2名1室18万円から、3泊は43万円から。1回当たりの売上は、2泊が573万円、3泊が1,495万円。それぞれに21本/年をかけると年間1億2,033万円と3億1,395万円。合計4億3,428万円/年となる。関わる従業員の数、食材、電気代、消耗品、リネンなど維持、何より設備の減価償却でかなりの出費になるだろうから、利益はそう大きく見込めるものではなさそうだ。JR九州サイドからも「利益を見込んでのものではない」というコメントが得られた。つまり、ななつ星は地域の浮揚、九州への観光喚起こそが目的なのではなかろうか。地域を活性化させて、人の流れを生み出す。人が増えたら通勤、通学の需要も増す。その際に使われるツールとしての鉄道。そういった長期的な視点を持って、観光列車やまちづくりに取り組んでいるようだ。
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