九州全体を網羅する軌道。その主役と言える存在が九州旅客鉄道（JR九州）だ。国鉄の分割民営化にともない生まれた同社は、当初より鉄道事業での苦戦が予測されていた。そんななかでも営業段階で利益を計上するに至り、現在も株式上場に向けて努力を重ね続けている。JR九州の行動から見える企業目的は、まさに「九州浮揚」である。地域を活性化させて人の動きを生み出し、鉄道業を守り続ける。その陰には多くの工夫と努力が払われているようだ。

＜話題づくりの巧みさ＞
　ななつ星の輝きが強すぎて陰になってしまっているが、こういった話題づくりの巧みさはJR九州の真骨頂と言ってもいい。2011年３月。念願だった九州新幹線が全線開通した。博多－鹿児島中央間を最短１時間19分で結んだ。東日本大震災直後の３月12日から運行が開始されたため話題は一時期、持ち越され、各地で予定されていた式典は軒並み取りやめられてしまった。しかし、そこがさすがというか、運があるというか、日本が衝撃に包まれているなか、九州新幹線のCMが明るい話題として日本中で取り上げられることとなった。「祝！九州横断ウェーブ」と題されたCMは、九州新幹線を走らせて、その沿線に一般人が集まり、それを撮影し続けるというもの。これはカンヌ国際広告祭でフィルム部門銅賞、アウトドア部門金賞、メディア部門銀賞を獲得するなど、世界中で高い評価を得るに至った。

　同時に11年、博多駅ビル（JR博多シティ）も大改装を実施、新たな大型商業施設として船出をする。東急ハンズや阪急百貨店など、福岡になかった大型テナントを誘致し、天神とは別の新たな商圏を形成するに至ったのである。これまでの博多駅のイメージを完全に払拭した。イメージづくり、話題づくりという点で、一歩先を行っているのがJR九州の特徴なのである。地域に行きたくなる施設をつくったり、そこにある観光資源を掘り出すなどして、目的地に着くまでの路線をプロデュースする。九州が活性化すればJR九州も伸びる。そのための長期視点を持ち、目的に向かって進んでいる会社と言えそうだ。

＜さまざまな業種を網羅＞
　JR九州の特徴は、鉄道事業以外にある。実は連結決算によると売上の構成も過半が鉄道業以外の分野で占められている。その事業とは、分譲マンションシリーズ「MJR」の展開、保険代理、旅行、病院などを自社で展開し、グループ内にはレンタカー、韓国と博多を結ぶ高速船ビートル、バス、建設、不動産、ドラッグストア、流通各種、ホテル業、商社などなど、非常に多岐にわたる。このような事業の多様性が他のJR旅客会社とは異なる点だ。各事業分野で、それぞれに目標を掲げて利益向上、地域浮揚に努めているのである。

　現在JR九州は中期経営計画「つくる2016」を実行している。その戦略の柱は３つ。くらしを支え物語を生み出す強い鉄道づくり、すべての事業によるグループ総合力強化、新規事業へのどん欲な挑戦、である。鉄道をしっかり維持しながら挑戦をし続けていくという考えで、数字を挙げれば16年に連結売上高3,700億円、うち60％を鉄道以外の収入で賄うこと、単独売上高は2,000億円。営業利益は連結で250億円（単独150億円）、経常利益は連結で300億円（単独200億円）となっている。肝となっているのは鉄道以外の分野の成長で、20％の伸びを目指すとしている。地域を興し、人を動かし利益を得る。そのためにさまざまな業種で活躍することを目指す。船出のときから逆風を受け続けてきたJR九州は、その工夫と努力によってこれからも九州を進化させていく。

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