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サロン幸福亭の課題と方向性(前)
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2014年3月24日 17:00

大さんのシニアリポート第19回

 前回、「サロン幸福亭」を誕生させた意味、行政の対応、住民の意識と抵抗、「まちづくりセンター」の怠慢などを詳報した。今回は、オープンを認めたURの諸事情、オープンまでの経緯、そしてこれからの問題と方向性などに言及して締めくくりとしたい。サロン幸福亭は高齢者の集える居場所である。母体とも言えるのが、千葉県松戸市常盤平団地内にある「いきいきサロン」である。「サロン幸福亭」はその真似、パクリであると公言する。それほどまでにUR常盤平団地の歩んできた歴史に、私自身大きく影響を受けた。自治会長中沢卓実のカリスマ性がすべてである。幾度となく登場するこの名前を抜きに語れない。再度お許しを乞う。

中沢会長 千葉県松戸市常盤平団地が竣工したのは昭和35年。167棟、総戸数5,359、団地人口2万4,000人。当時、東洋一のマンモス団地として評判をとった。「団地族」という憧れの称号を得るために、20倍を超す倍率に挑戦。決して安くはない賃貸料を工面してまで入居を夢見た。
 夢はいつかは消える。大家である日本住宅公団は、定期的に賃貸料や共益費の値上げを通告した。これに自治会が主体となって激しく反発。先頭に立って公団や建設省(現国交省)と対峙したのが中沢卓実自治会長だった。ときには裁判闘争も辞さなかった。その後の建て替え通告時にも、「日本の建築技術は世界一だ。鉄筋コンクリートは100年持つ」と反論。公団の「35年建て替え説」に異議を唱えた。結果、UR(旧住宅公団)は当時築50年の常盤平団地の建て替えを断念し、ライフラインの整備と建物のメンテナンスのみにとどめた。

 その結果、実に奇妙なことが起こり始めたのである。松戸市近辺にある建て替えられたUR賃貸住宅の空き室急増をよそ目に、常盤平団地は常に満杯状態。順番待ちができる有様である。高齢者が増えた団地では、年金に頼る世帯が多い。賃貸料が格安で、建て替えのための面倒な引っ越しもないのだから、当然といえば当然なのである。中沢はまた、「住民の孤独死は自治会の恥だ」として正面から取り組み、NPO法人「孤独死ゼロ研究会」を立ち上げた。「松戸市は高齢者に優しい街」という印象を与えたことも満杯の理由の1つと言える。正直、中沢卓実という傑物、カリスマがいなかったら、間違いなく常盤平団地は建て替えられ、周囲のUR賃貸と同じように空き室だらけになり、住民は四散。培われてきた住民同士の絆は完全に霧消しただろう。
 突然の変化は意外にもUR自身のなかから起きた。ここに興味深い新聞記事がある。

 「独立行政法人・都市再生機構(UR)が、土地や建物を借りて賃貸事業を行う団地83カ所のうち、82カ所が12年度は赤字だった。赤字額は計31億円にのぼり、このままだと20年度に100億円に膨らむ。URは、土地などの所有者に支払う賃貸料を家賃収入で賄う。だが、12年度の82団地の空き室率は最大52%で、平均19%。所有者と賃貸料の減額交渉を行っていないことなども、赤字増大につながっている」   (朝日新聞 平成25年11月8日)

 この記事はURが土地や建物を借りての賃貸事業に限定されているが、多摩ニュータウンをはじめ、自前の土地に建てた賃貸物件に対しても同様の現象が起きている。空き室数を公表していないので実態は不明なのだが、私の住む公的な賃貸住宅の目の前にあるUR賃貸住宅も、おそらく1割から2割が空き室状態だと思う。某駅前にあるUR賃貸住宅も同様だ。住民の平均年齢が65歳だというから、見事に「限界団地」である。家賃が高くて若夫婦は住めない。退職し、厚生年金で自適に暮らす年配者の棲家と化しているからだ。

サロン幸福亭 そこでURは、積年の敵であった松戸市常盤平団地に学んだのである。団地内にオープンした「いきいきサロン」は、空き店舗を利用したコミュニティ・サロンである。休みは正月の三が日のみ。362日、毎日オープンする。高齢者の居場所だから当然である。利用客は1日平均30人。1年に換算すると1万人以上。入室料としてひとり100円。年収100万円。2階を貸室にしているので、ここからの収入も見込める。家賃の6万円は、自治会と地区社協とで折半する。支出は光熱費と飲み物代、それにフロア・スタッフに支払う時給200円の人件費(2人態勢で、1日6時間営業。年総額約87万円)。十分に採算が取れる。この事業もまた、「高齢者に優しい団地」として'満杯'の一翼を担っている。URはここに目を付けた。

(つづく)

≪ (18・後) | (19・後) ≫

<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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