（株）アダル

＜中国・上海進出成功抜きには今日はなかった＞
　飲食店やホテルなどで使う業務用家具メーカーの（株）アダルは、1953年に創業して昨年60周年を迎えた。そしてこの４月より、武野重美社長から現在の専務である武野龍氏に社長がチェンジする。いわば１世紀を超える企業づくりに挑戦する、新たな闘いの口火が切られる局面に突入したのである。ここで業界を振り返ってみると、業務用家具の同業者は無数にひしめき合っていたが、ほぼ壊滅状態になった。となると、どうして同社だけが隆盛を誇ることができたのか。その答えは、上海進出が成功したからだ。

　武野社長が中国・上海に進出を決め、工場を構えた。成功までには辛酸を舐める厳しい体験をした。そこでようやく基盤を固めた。同社長は「18年前からデフレで、同業者が赤字圧迫で廃業続出を目撃した。我が社も平成初頭にバブルが弾けて、単価値下げの強要を受けた。『これでは潰れるな』と危機感を抱いたので、上海進出を決めた」と背景を説明する。武野社長の予想通り、日本では18年間デフレが続いた。上海の子会社でコストの安い製品を製造してアダルにわたし、日本国内の現場に納めることで、どうにかデフレ対応が可能になった。

　一言で、中国において工場を稼働させることに成功させたと言うが、日本の企業の成功の例は１％程度だ。大半が失敗の憂き目に遭い、泣く泣く中国からの撤退を余儀なくされた。どうしてアダルは成功したのか？
　武野社長は「たしかに、日本の中小企業で成功したケースは少ない。だが、成功した例から学び取れる共通点は、中国人の信頼できる人材をつかんでいるということだ。おかげで弊社も、熱心で有力な逸材とのめぐり合いがあったからこそ成功できた」と率直に解説してくれた。

　また、「生活してみないとわからないことばかりだ。日本の常識はまったく通用しないところである。中国人、皆、我が自己中心的な考えで動くから、ここのツボをつかむのが重要だ。そうしないと、彼らを使うことが不可能になる。中国で成功する経営者の条件は積極的に挑戦するタイプであり、何事にもくじけないタフな人だ。今から思えば、ギブアップするかどうかの試練期もあったが、スリルがあって面白かった」とも付加する。

＜上海事業も自立可能になる＞
　上海には２カ所で工場を構えている。工場労働者は200人に迫る。人件費も高騰している。上海における素材加工産業の採算ベースは、困難を極めてきた。加えること、円に対して元が高くなり、日本側からの輸入メリットが薄らいできた。『上海で安くつくり日本に持ち込み利益を捻出する』というビジネスモデルの検討も迫られてきている。18年の月日の移り変わりよりも、事業転換のスピードの方がはるかに速い。武野社長も当然、上海製造のコスト高の対策には余念がない。

　ただ、ここで嬉しいことも生じている。上海の２つの工場はそれぞれ別法人にしているが、２社とも親会社に頼らずとも自立できる販路を開拓できるメドが付いたということである。世界的なコーヒーチェーン店のスターバックスとの取引が始まった。このグループ企業の、中国国内だけでなく世界展開の店舗に家具を納入する実績が増えてきた。スターバックスだけではない。各方面からビジネスの打診が増えてきた。これは、武野社長の上海事業の成功を認め、同氏へアプローチを行なってきている証明なのである。上海・中国事業において、幅の広さが加われば鬼に金棒だ。日本・中国の２本立て事業が、それぞれに自立・補完できれば頼もしい限り。新しい成長の展望が見えてくる。

｜　（後）　≫

＜COMPANY INFORMATION＞
代表取締役会長：武野　重美
代表取締役社長：武野　龍
所在地：福岡市博多区金の隈3-13-2
設　立：1968年４月
資本金：１億8,225万円
ＴＥＬ：092-504-4141
ＵＲＬ：http://www.adal.co.jp/

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