＜今年１月に決断。２月に告知＞

　順風満帆とみられた同社だったが、時代が進むにつれて、結婚情報誌業界にもさまざまな競合が出てきた。業界大手のリクルートが発刊する「ゼクシィ」は、ブライダルカウンターと情報誌、ネット予約まで含めて猛威を振るっている。近年においては、呉服業界大手の山田屋が「ぶらナビ＋（プラス）」をネット上で展開。時代は、結婚式のネット予約が主流となりつつある。
　児島社長によると、同社がネット事業に乗り遅れたこともあるが、昨年からネット予約の脅威をとても感じていたという。そのため、将来のことを考えると、最低でも１年、そして数年間は事業を存続できたとしても、先々、ビジネスが成立しなくなれば、スタッフが路頭に迷うことになる。ならば企業体力のあるうちに事業規模を縮小すれば、スタッフの再就職が有利になるだろうとの判断から、今回の措置を取った。児島社長が今回の決断を下したのは今年１月。翌２月に全従業員に告知し、その後、クライアントに説明がなされた。

　今後、大半のスタッフは解雇され、数名のスタッフだけが残り、２年先の結婚式の予約が完了まで事業を行なう。「女性の35歳と36歳では、一歳違うだけでも大きなハンデとなる。そのようなことを考えると、早めの決断をせざるを得なかった」と児島社長は語る。
　現在、解雇する従業員の転職の斡旋に奔走している。経営者として事業をやめ、従業員を解雇することは、まさに断腸の思いであるに違いない。だが、再就職先との交渉を含め、存在しない７月分の賞与支払いなど、経営者としてできることは精一杯やった。９万組のカップルを幸せにしただけではなく、スタッフのその後の幸せをも真剣に考えている。

　３月の休刊号は、金額として推定で最低でも3,000万円以上の広告収入を得ている計算となる。費用対効果の高い媒体として、クライアントは評価していたのだろう。
　３月に休刊を発表した際、数多くの企業が媒体ロゴとノウハウの利用を含めた権利の買収を打診してきたという。しかし、児島社長はそれをすべて断った。同社の営業と編集は、プライドを持って仕事に取り組んでいたことがうかがえる。児島社長だけではなく、数多くのスタッフが今のメロンを築き上げてきただけに、特別な思いがあるのだろう。児島社長だけではなく、スタッフは、この媒体を他人の手でいろいろと変えられることに耐えられないと判断したのか。売却すれば、権利金を含めて大きなお金が入ってくるかもしれないが、お金の問題ではなかった。一抹の寂しさも感じられるが、余裕のある時にこのような決断をした児玉社長からは、経営者としてのエゴがまったく感じられない。

　児島社長の経営判断には評価すべきものがある。その際たるものは、従業員の幸せを追求してのものである。従業員の幸せがあって、結婚する人たちへの幸せを提供できる。引き際も、従業員を第一に考えたものであった。
　人をコマ扱いし、数多くの媒体がなくなっていく福岡の出版業界。ガリヤの顛末は、その最たるものであった。それとは対照的なメロンは、秀逸な経営者によって、伝説の媒体となった。

（了）
【矢野　寛之】

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