<再稼働の既成事実をめざす九電>
「新規制基準は国が作るもの。九電は新規制基準を信頼している」
「新規制基準について当局から合格をもらった後に主張します」
「新規制基準に合理性があるという主張を九電がとくに主張しようとは思っていない」
九州電力側代理人は7月4日の佐賀地裁の口頭弁論で、こう発言している。
九電が裁判でのらりくらりと、矛盾した発言を繰り返すのは、理由がある。一見、愚鈍そうな主張に見えるが、九電にとって最善の作戦だからだ。
従来の原発訴訟では、電力会社側は国の安全基準に適合していると主張・立証すれば、事実上安全性が立証されたも同然だった。
しかし、福島第一原発事故後、原子炉等規制法の設置許可を受けていて法的には稼働できるにもかかわらず、川内原発、玄海原発を含め日本のすべての原発は停止中だ。新規制基準に基づく適合性審査に合格もしていない。
九電にとって、未知の領域で司法判断を求めていくのは冒険過ぎる。新規制基準に合格して安倍内閣が再稼働を認めた後から、行政判断を裁判所に追認してもらう方向で主張を組み立てれば、従来の判断枠組みを応用できる。そこでとったのが、逃げ切り作戦だった。
本来、九電には、2013年12月、14年3月、同7月と3回、佐賀地裁で反論の機会があった。しかし、「逃げ切り作戦」で、再稼働という既成事実をつくるまでは、実質的審理を避けてきた。サンドバッグのように打たれても痛くもないが、反論を出し尽くしてしまうと、証拠調べを経て、結審・判決に向かう。現実に、大飯原発では福井地裁が差し止めを認める判決を出した。
<安全性を曖昧にした議論を司法は許さない>
法廷での争いでは、安全性を曖昧にしたまま再稼働する安倍内閣の手法は通用しない。
新規制基準について規制委員会の田中俊一委員長は「安全を保証するものではない」と言う。「新しい規制基準、現行の規制基準に適合しているかどうかだけを判断しているのであって、絶対安全という意味で安全ということを言われるのでしたら、私どもは否定している」というわけだ。
一方、安倍首相は「規制基準に適合すると認められた原発は再稼働を進める」として、安全性は規制委員会によって墨付きだから再稼働の政治判断をするという姿勢だ。エネルギー基本計画は、「規制委の安全性判断の下で再稼働を進める」としている。知事や議会は、政府の安全性確認を信頼し、再稼働を同意しようとしている。
結局、どの行政機関も安全性の保証はほかに押し付けて、誰が責任を持って安全性を保証したのか不明なまま再稼働に進もうとしている。
国会で追及を受けても、安倍首相はじめ大臣は言いっ放しで、逃げることができる。九電は、市民団体などから、安全性について公開質問状を受けても、文書での回答を拒否している。
こうした曖昧路線は裁判では通用しない。国であれ、電力会社であれ、「言いたくないから答えない」で済ますことはできないし、明らかに矛盾する主張は採用されない。それは、法廷には裁判官というアンパイアがいて、逃げ場がないからだ。
原告側代理人の馬奈木昭雄弁護士は「九電と国がきちんと議論せず、逃げ続ける限り再稼働を許してはいけない」と指摘する。
(つづく)
【山本 弘之】
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