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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(29)
経済小説
2012年5月 2日 07:00

<第四章 植木頭取時代>

次期頭取誕生までの栄光と挫折(6)

  戦時中の一県一行主義によって西部県に維新銀行が百六十銀行を主体として誕生したのと同様、福岡県にも十七銀行を主体とする合併により福岡銀行が誕生した。

 福岡銀行は戦後間もない1949年(昭和24年)6月に福岡証券取引所に上場。地方銀行ではトップクラスの地位にあった同行ではあったが、その経営実態は保守的であり、労務管理においても封建的であった。福岡銀行従組による労働争議は、一県一行主義により地域経済を独占的に支配する経営側に対する内部からの反乱であったとも言える。

 経営側が組合運動を見くびっていたことが争議の発端であったにもかかわらず、地方銀行特有の経営体質は変わらず、旧態依然とした高圧的な態度に終始したことが、争議を長引かせる大きな原因となった。

(一)銀行側は「団交時間は一時間」という条件を出した。
(二)抗議を聞き入れず重役室に鍵をかけて交渉を打切るに至った。
(三)7月13日、先にビラを破った株主は暴力を奮って組合員を負傷させる事件を起こした。

 特に問題なのは(三)であった。ピケを張っていた組合員を銀行の応接室に呼び込んで暴力を奮い、全治二週間の傷を負わせた人物は炭鉱を経営する地方ボスであったと言われる。
福岡銀行はそのボスが経営する会社に巨額の貸付をし、金利を払えないため銀行に差し入れていた自動車を、争議中そのボスに貸してスト破りに使用させたという事態が明るみになった。
 
 経営側のなり振り構わない態度に、それまで傍観者的な態度であった組合員を団結させる結果となり、経営側の切り崩しにも脱落者が少なかった一因とも言われている。

woman.jpg 当時福岡銀行の従業員は2,400人、そのうち約900名は女子行員であった。職場における封建性は多くの地方銀行に見られることであった。

(一)女子行員は結婚すると退職しなければならない。
(二)職制を通じて時間外労働に賃金が払われないサービス残業が行なわれていた。
(三)職場大会で経営側に批判的な発言は転勤の対象となり、組合役員の選挙も銀行の人事課の干渉を受け、立候補者も全部人事課が指名する。

などの経営側の露骨な労務管理態勢の実態が組合員の4割に当たる女子行員にも知れ渡ることになり、それまで組合活動に熱心でなかった組合員も、閉塞した現状を打破するための争議活動に積極的に参加する大きな原動力となったと言われている。

(つづく)

【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」


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