＜谷野頭取包囲網（44）＞
川中常務にとっては針の筵に座らされ、裁きを受ける罪人のような感覚を味わう屈辱的な会議であった。小林取締役が、
「財務局より自主調査の実施については、準備ができ次第早く実施するようにと言われていますが、調査内容の項目などを財務局と詰めたりする作業や印刷の関係などもありますので、予定としては３月12日（金）に発送し、３月15日（月）に、調査表が全行員に届くようにしたいと考えています」
と述べた。
すると川中常務は、
「この自主調査は３月８日（月）開催予定の経営会議と取締役会議に諮らないで、実施を決めることになるのですね」
と不審そうな顔つきをして尋ねた。
小林は、
「この調査は表向き自主調査となっていますが、実際は業務改善命令と同じような言い方でした。小石原理財部長に言わせると、『維新銀行には現在２件の業務改善命令を出しており、その上に更に業務改善命令を出すことになると、調査の結果次第で一部の支店に営業停止命令を出すことにもなる。しかし谷野頭取が２件の不祥事件を受けて、綱紀粛正の一環として全行員に対し、第五生命の山上外務員の保険勧誘への協力を止めるように指示していることや、審査担当役員を通じて、第五生命の山上外務員が持ち込む保険料ローンの取り組みを禁止したことを考慮して、今回は自主調査とした』と言われました」
と説明した。
続けて、
「調査の実施内容について説明させて頂きます。実施部署は空白になっていますが、先程谷野頭取と相談し、私が管掌している経営管理部コンプライアンス統括室とします。
表題については、『第五生命保険相互会社の保険契約に関する調査』とし、財務局よりペーパーで頂いた調査の概要を要約したものをお配りしていますが、読ませて頂きます。
（１）報告内容
１．自らが関わった第五生命の新規保険（経営者保険）の成約内容。ただし、稟議作成や融資実行時等の事務処理は除く。
２．他の行員が関わったと思われる第五生命の新規保険（経営者保険）について知り得る成約事例
（２）報告の対象者
全行員（平成１６年３月15日現在在籍行員）
ただし、嘱託行員・臨時雇・パートタイマー・派遣社員は対象としない。
（３）報告要領
１．匿名を不可とし、「行員氏名」を必ず記入する。
２．各行員は、報告内容の有無に関わらず各人ごとに封緘のうえ部店長に提出し、部店長は「経営管理部コンプライアンス統括室長」へ送付する。
３．平成元年以降の保険契約を対象とする。
（４）留意事項
１．既に解約となった保険を含む
２．保険契約の原資如何に関わらず、すべて記入する。
３．個人の記憶の範囲によるものが大きくなるが、内容について極力正確な報告を行なう。
※ただし、「虚偽の記載があった場合、後日問題が生じることもあるので十分注意すること」とする。
４．調査は必要に応じ当時の所属店へ個別照会を行い、当該店の協力を求める。
※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。
▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」～第１章 谷野頭取交代劇への序曲（１）
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