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「維新銀行 第三部 クーデター」~第1章 クーデター前夜(15)
経済小説
2013年1月23日 07:00

 風呂から上がった谷野は寝室に戻り眠ろうとしたがなかなか寝つかれず、今日の事態に至った経緯を振り返って見ると、それは「谷本相談役を頂点として組合幹部出身の取締役と山上正代」のトライアングルによって維新銀行が支配されており、頭取となった谷野の権限は限定されたものでしかないと思い知らされたことだった。

 今になって想えば、谷本が頭取の座を谷野に譲り相談役となった理由が読めた。それは会長の座に就けば2年毎に株主の選任を受けなければならないし、長期在任すれば内外からの批判を受ける恐れがあるが、相談役であれば誰も何も言わない。つまり谷本は相談役を隠れ蓑に影の実力者として君臨し、維新銀行の経営権と取締役の選任をわがもの顔で支配し続けることが目的だったこともわかった。

 そのための布石として谷本は、意のままに動かせる組合幹部出身の取締役を選任し、また腹心である栗野を会長に指名したのは、傀儡として頭取に据えた自分がもし万が一、実力をつけて謀反を起こすようなことがあっても、それを潰す体制をとっていたことも今回の件で初めて判った。

 また維新銀行では、経営会議によって審議され上程可決された議題が、その後に開催される取締役会議で可決承認されることになっている。経営会議の議長は頭取、取締役会議の議長は会長と規定されており、企業の正式な意思決定機関である取締役会議の議長ポストは、谷本の腹心である栗野が握っており、頭取の谷野を牽制する布石を敷いていた。
 谷本にとってもう一つ大切なことは、第五生命の山上が維新銀行を舞台に保険勧誘をすることを谷野に認めさせることであった。しかし谷野は頭取に就任すると赤字決算を強行し、また第五生命の山上の保険勧誘を禁止するなど、谷本や栗野と敵対する態度を取り続け反旗を翻して来た。
 万全な体制を整えたと思っていた谷本にとって大きな誤算は、谷野に反旗を翻されたことであったし、栗野が病気となって、こんなに早く退任を決意するとは思ってもみなかったことだった。
 このまま谷野を頭取に据えておくと自分の身が危なくなると決断した谷本が、谷野に退任の引導を渡すため、守旧派の4人を刺客に差し向けて来たこともわかってきた。
 頭取として何としても維新銀行を正常な姿に戻したいとする谷野が選ぶ道は、維新銀行を私物化した元凶である「谷本相談役」の支配から脱却することであった。反対に相談役に降りた後も、フィクサーとして維新銀行の支配を続けようとする谷本にとっても、傀儡の頭取として据えた谷野の謀反を断じて許すことはできなかった。谷野にとって2004年5月7日(金)は、まさに谷本を首領とする守旧派の宣戦布告によって、不倶戴天の敵同士の戦い「谷野頭取交代劇」(クーデター)の火ぶたが切って落とされた日であり、老獪な谷本の計略によって負け戦を覚悟した日でもあった。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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