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「維新銀行 第三部 クーデター」~第1章 クーデター前夜(19)
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2013年1月29日 07:00

 沢谷たちはエレベーターに乗り5階の和食レストラン「花瀬」に向かった。川中の名前を告げると、受付の女性は、
「お待ちしていました。見晴らしの良い予約席をご用意しています」
 と、にこやかな笑顔見せながら、海側の席に4人を案内した。

 晴れた日であれば海峡越しに本州と九州を結ぶ関門橋や、対岸の門司港と小倉方面も見渡せる見晴らしの良い場所であったが、あいにく席についた頃から小雨が降り出し、周りの景色は鉛色の霞に覆われていた。周辺は市内中心部の観光スポットで、ホテルの東側には市営の海峡魚市場があり、土日となると沢山の市民や観光客が新鮮な魚介類を買い求めて賑わいを見せるが、今日は雨が降り出したせいもあるのか、行楽シーズンの土日の割には繰り出す人は少なかった。また右手にある市営の水族館「海峡館」も小雨にけむり、訪れる人も心なしか少なく見えた。

 食事が運ばれ、皆が箸を取ると、専務の沢谷が、
「谷本相談役から、説得の材料として、皆さんに伝えてほしいと言われた内容を披露しておきます」
 と切り出した。
 その内容とは、次の3つであった。

 まず1つ目は、『維新銀行は伝統的に和を大切にしてきた。しかしこの様に役員間で対立するような深刻な事態に陥っている。このままの状態が続くようであれば、役員間だけでなく行員の間でも更に対立が激化し、維新銀行は内部から崩壊する恐れがある。今何らかの対応をしておかないと大変なことになる。そのためには、まずその原因を作った谷野頭取が責任を取って退任しないと、既に修復できないところまで来ている。谷野頭取が決断しさえすれば、今までのわだかまりは全て水に流せるし、維新銀行の結束は守られる』と、粘り強く説得すること。

 2つ目は、『2年間という短い期間ではあったが不良債権を処理し、業績も急回復を果たしており、この際頭取の地位に連綿とすることなく、この素晴らしい実績を花道にして、維新銀行の頭取という大局的な立場から退任を決断してもらいたい』と説得してほしいということ。また栗野会長と谷野頭取の2人が同時に退任することに不安を感じる行員や取引先に対しては、『後進に道を譲るので温かく見守ってほしいとメッセージを送れば納得もしてくれる』と、力説すること。

 3つ目は、『そこまで言っても退任に応じない場合、取締役会議で再任否決の動議を出し頭取を罷免することになる。しかしこの頭取交代は内紛によるものだとマスコミが嗅ぎつけて騒ぎだすと、維新銀行の信用は大きく傷つくことになるし谷野頭取自身も大きな傷を負うことになる。そうなると行員や取引先にも動揺を与えるだけでなく、中国財務局や日銀も黙ってはいないだろう。そうならないためにもこの際私情を捨てて是非退任を決意してもらいたい』と、あくまでも自発的な退任を説得すること。

「以上のことを言われたよ」
 と沢谷が話し終えると、夫々は谷本相談役の言葉を引用し、谷野頭取の説得に当たることを決めた。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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