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「維新銀行 第二部 払暁」~第2章 クーデター計画(28)
経済小説
2012年11月19日 07:00

<谷野頭取包囲網(28)>
 堀部は胃を三分の一切る手術は無事終えた。幸いに胃がんは内部に留まっており、リンパにも飛んでいなかった。摘出手術だけで済んだため、放射線治療などを受けることもなかったため、年末には自宅に一時戻ることを許された。1月8日に退院し、その足でその日開催された取締役会議に出席できるまでに回復していた。

sora_10.jpg 手術が終わって間もない病身の堀部は、吉沢前任支店長が常盤支店の移転計画の候補地としていた案を白紙に戻した手前、何としても急いで新しい候補地を探さなければならない立場に追い込まれていた。
 そこで堀部が目を付けたのは常盤支店に隣接する更地で、財務省が常盤市に払い下げをした石炭局跡地であった。堀部はその跡地を手に入れるため常盤市の縄谷助役と交渉を始めていたが、縄谷は、
 「歴代の支店長が本店を通じて中国財務局に打診をしたらしいが、全然相手にしてもらえなかったと聞いている。国の財政危機のために石炭局の跡地は、3年前に常盤市に払い下げられたが、民間への短期転売を防止するため10年間の買い戻し特約が付いており、この話はたとえ維新銀行からの申し出であっても、財務省が絡んでいるので無理ですよ」
 と、素っ気ない返事を繰り返していた。

 しかし堀部は諦めなかった。堀部は「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」の諺通り、市長の女房役で議会対策の要である縄谷助役を、何としてでも動かさないと計画は前に進まないと踏んでいた。縄谷助役に何度も相談を持ちかけているうちに、お互い次第に打ち解けるようになり、縄谷もとうとう根負けしたのか、
 「松谷市長に一応その件について話をしてみましょう」
 と、今までとは違った反応を示すように変わっていった。
 堀部が胃がんの手術をした2カ月後のある日、縄谷助役が、
 「松谷市長も堀部支店長の申し出を了解したので2人だけで会ってみては」
 と、話しかけて来た。その数日後堀部と松谷市長との2人だけでの会談が行われ、話を前に進めることが決まった。

 松谷市長は常盤市出身で東大卒業後建設省に入省。近畿建設局長を退官し常盤市長に迎えられた人物であった。官から官への払い下げは省庁間の話し合いで調整することはできるが、官から民への払い下げには色々な制約がついてまわり、一筋縄ではいかなかった。
 堀部にとって歴代の支店長が果たせなかった常盤支店建て替えを、自分の支店長在任中に実現したいとの大きな夢を持っていた。
 それを実現するためには官と官、つまり松谷常盤市長と中国財務局とで交渉してもらうことしかないと堀部は考えていた。

(つづく)
【北山 譲】

≪ (27) | (29) ≫


※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。

▼関連リンク
・「維新銀行 第二部 払暁」~第1章 谷野頭取交代劇への序曲(1)


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