私は、早いものでもう4年になりますが、2008年のリーマンショックのとき常務・管理本部長として勤務していた新興デベロッパー「DKホールディングス」を民事再生の申請により倒産させ、その後の処理の一切合財を他の取締役と分担して取り組んできました。
企業の民事再生に直面して、管理責任者としてもっともハードなのは銀行から追及されつつ何とか倒産を逃れようとしてもがき苦しむ時期でした。次いで、民事再生の準備から申請、そしてその後のリストラと一部事業の存続の模索という時期です。
時系列で振り返れば、市場に変調が生じ、ファンドバブルの崩壊を感じたのが08年3月から。その後、5月には全現場のストップ、8月に大型の土地を売却して今後にかすかな希望を持ちましたが、その後9月に入ってリーマンブラザーズが倒産またJ-REITの一銘柄も倒産して、不動産に投資しようという人は皆無となってしまいました。
このため、11月に民事再生を申請しました。
その後は、事業リストラと一部事業の新会社への継承を09年5月に完了するまで、困難の連続でした。事業継承により残された社員の雇用を守り得た時には、本当に肩の荷を下ろした気分になったものです。
このような大仕事をやりきると、その後は、残った資産の換金や債権者集会の対策などで時間的には余裕が生まれてきます。私は、この余裕時間を利用して、それまでに私たちがたどった民事再生の道筋を、駄文ながら詳細に記録に残したいと考えました。同様の困難に直面する経営者や管理部長のために少しでも参考に供せるものを世に負の教訓として残したいと思ったからです。
文章など書いたことのない私がそれをまとめるのは大変難しい作業でしたが、幸いに余裕時間に恵まれ、何とか書き上げることができました。それは、『天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日までの記録』というドキュメントとしてまとまり、データ・マックスの児玉社長の目に触れる幸運もあって、同社のニュースサイト「NET-IB」で155回に渡り連載されることになったのです。
このように企業の倒産にスポットを当てた生々しいドキュメントは、今までなかったもので、連載が始まるや否や大変な反響を呼びました。どちらかといえば批判的なご意見よりも、企業再生の現場の生の苦労への感心や、このような過程を詳細に記録に残すことの意義についての肯定的なご意見が多く、やはり苦労をして書いてよかった、と思ったものです。
しかし、一方で反省もありました。
第一に、抑揚のない淡々とした文章をダラダラと綴ったことで、リアリティを追求できた反面、読み物として幅広い方々に受け入れられる文体ではなかったため、これでは民事再生の困難を多くの方々に伝えることはできなかったのではないかと思えました。そこで、より幅広い方々に関心を持って読んでいただけるよう、もっと平易で簡潔な文章で民事再生劇を振り返ってみるべきと考えました。そのために、前作で書ききれなかった、些末ながら関心が集まりそうなエピソードも加えました。
第二に、私自身の経過について綴る部分が少なかったことです。当事者としての私の内省など、読者には関係のないことかもしれませんが、これをもう少し書き残しておきたかったのです。私は、倒産処理が長引いたため、生計を維持して民事再生を完遂するために、ある離職率の高い企業に籍を置きました。その後、無職となることも余儀なくされました。今は、良かった時期の3分の1の年収から再出発の路を歩んでいます。このような経緯も、企業倒産によって幹部社員が被る一面であるため、これは書き残しておきたいと思った次第です。
第三に、このような記憶を呼び覚まして文章を綴っていくことは、古傷に塩をすり込むようなもので、筆が進まず、大変に苦しいことでした。前作では、そういうこともあって、私自身の負荷としてつらいと感じた部分を軽く書き流してしまったことを反省しています。しかし、そういう苦しみも、多くの社員の雇用を失わせたもと管理担当役員として負うべき十字架であって、そこから逃げるべきではない、という一念のもとに書き起こしていきました。
今、平成の徳政令といわれる金融円滑化法の効果で、企業倒産が抑制されています。
しかし、銀行負債のリスケジュールは、住宅ローンやアパートローンなどであと少し返済期間を延長すれば不動産が手に入る、というような方には有効ですが、それは給与収入なりアパートの家賃収入なりのキャッシュフローが少ないなりに継続しているからです。
一方、営業キャッシュフローを生み出しえない企業にとっては、リスケジュールは問題の先送りに過ぎません。だから、今はリスケでも資金繰りできない倒産予備軍がどんどん増えているはずで、近々、企業倒産は再び増加する方向に向かうでしょう。
すでに20年間ゼロ成長で、総人口まで減少に転じた我が国です。利益を上げている企業があると思ったら、たいていは海外で成長しています。だから、国内で働いている多くの方にとって倒産および雇用の喪失は今後も他人事ではありません。
しかし、雇用を喪失しても人は生きてゆかねばなりません。
人生まであきらめるわけにはいきません。
再出発し、少しでも経済生活を改善するために努力しなければなりません。
私も、その単純な事実を身を以て体験することになりましたが、少しでも多くの人々が雇用を得て、より良い暮らしを送れるよう願ってやみません。
▼関連リンク
・REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(1)~はじまり
・REBIRTH 民事再生600日間の苦闘(5)~売れない物件
<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)
東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。
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