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SIDSとALTEの闇(6)~KC中の事故は親の責任? 大阪地裁判決(4・終)
社会
2013年9月26日 11:58

<存在しない体温記録>
 被告・病院側の(1)分娩室の室温を25℃以上とし、直接空調の風が当たらないようにした、(2)保温された新しいバスタオル2枚で女児をくるみ、母親の体温で温めたことなどから、保温には十分留意していた。その病院側の主張について、「出産直後の母親のお腹の『皮膚温』は、赤ちゃんの『体温』より低く、保温効果はない」と久保田医師は指摘する。

母親に抱かれた女児の様子(動画より) 「へその緒が切断された後、女児は母親の胸の上に『うつ伏せ寝』の状態に寝かされ、保温のためにバスタオルや母親の産着に包まれ、その上からさらに布団がかけられた。そのため女児の身体は顔の一部しか見えず、児の観察で最も大事な全身色(チアノーゼの有無)、呼吸状態(多呼吸、陥没呼吸、努力呼吸、無呼吸)・手足の動き(筋緊張度)など、女児の全身状態の観察はまったく出来ない状態で管理されていた。

 判決によれば、母親の体温で女児を温めたとある。しかし、母親の体温が正常(37℃)であったとしても、分娩で熱源が失われた母親の『皮膚温』は赤ちゃんの『体温』より低い。熱源とは、胎児・胎盤・羊水・出血などを指す。分娩直後の母親は熱源のロスによる体温低下を防ぐために、全身皮膚の末梢血管を収縮して体温を正常(37℃)に保とうとする。末梢血管の収縮作用による放熱抑制だけで体温の恒常性が保持されなければ、筋肉運動(フルエ)によって熱産生を増やし恒温状態を保とうとする。母親が分娩直後に寒さを訴えるのは、分娩室が寒いだけでなく、熱源が失われるからだ。以上の理由から、分娩直後の母親の体温は正常であっても、母親の皮膚温は赤ちゃんの体温より低い。母親は、お腹の上で裸の赤ちゃんをのせられた時、赤ちゃんの温もりを感じる。それは、母親の皮膚温より赤ちゃんの体温が高いからである。保温どころか、赤ちゃんは母親に熱を奪われる」(久保田医師)

へその緒を切断した後、女児は窒息の危険性の高い『うつ伏せ寝』の状態で分娩台の母親の胸の上にのせられた。そして、出産から母親の胸の上で女児が心肺停止で発見されるまで、体温は1度も測定されることはなかった。女児はタオルケットやフトンで被われていたために、全身状態の観察ができる安全な保育環境になかった。しかも、助産師は児の継続的な観察どころか、気道確保のチェックすらしていなかった。被告・病院側には女児の体温記録がなく、低体温であったかどうかだけでなく、病院側の保温が十分であったかを証明する記録もない。

 次回以降、『麻酔医としての立場』から、新生児の体温管理(保温)に重点をおく久保田医師が行なう久保田式出産医療「温めるケア」を紹介していく。久保田医師は、出生直後から生後2時間保育器内(34℃⇒30℃)に収容し、恒温状態への早期安定を図り、バイタルサイン(体温・呼吸・循環)が安定した安全な状態を確認した上で、早期母子接触(正常に産まれた児へのカンガルーケア、STS)を行なうことを進めている。

 「早期母子接触(STS)の『早期』の意味は、何も分娩直後の覚醒している時間を指しているのではない。長い人生において出生30分以内も、24時間以内も同じ短い時間である。ならば、あわてて危険な出生直後からの早期母子接触を行なうべきではない。赤ちゃんの体温・呼吸循環動態が安定し、産後の母親の疲れがとれてから、母親が座った状態で早期母子接触を行なうべきである。赤ちゃんは逃げていかない。出生直後のカンガルーケアや完全母乳にこだわらず、ゆっくり赤ちゃんと目と目で会話をしながら母乳育児を楽しむべきだ。布団に隠れ、頭しか見えない母乳育児は、医療においてルール違反、即刻中止すべきだ」(久保田医師)

 出産直後から女児をうつ伏せ寝にし、児の管理を親まかせにし、体温記録も残さない被告・病院側の「ママカンガルーケア」は、まさにリスクを軽んじたSTSである。いずれ厚労省と学会の責任が問われるが、被告病院が出生直後のカンガルーケアの危険性を無視し、女児を『うつ伏せ寝』にしたこと、助産師が呼吸循環動態の不安定な最も危険な時期に、児の継続的観察を怠り、児の呼吸状態の異常(窒息)に気付かなかったことが、心肺停止の直接の原因である。今回の判決は、産後の母親は児の観察をするために眠ってはいけないと、厳しい結論を下したのである。

 すべての母親に、カンガルーケアや完全母乳へのこだわりはないはずだ。求められているのは、大切な我が子に対する安全な医療。国は、少子化対策で育児支援を行なう前に、厚労省の「授乳と離乳の支援ガイド」を見直すべきではないだろうか。出産医療を脅かす原因不明という『闇』は、なぜ、生まれたのか――。

 原告の女児とその両親は、大阪地裁の判決を不服とし控訴する予定である。

(つづく)
【山下 康太】

≪ (5) | 

 以下、大阪地裁に原告から証拠として提出された動画の一部を久保田医師の協力を得て、同医師の解説を添えて掲載する。動画は、出産に立ち会った原告の女児の父親が記録したものであり、裁判において、女児がおかれた状況を伝える重要な証拠となるはずであった。

YouTubeで見る>>

■久保田医師の解説
 「口腔と鼻腔が同時に塞がれた場合、赤ちゃんは呼吸ができなくなり、窒息状態に陥ります。あお向け寝では、口腔・鼻腔が塞がれる危険性は絶対にありませんが、うつぶせ寝で授乳をすると窒息の危険性が増えます。早期母子接触では、赤ちゃんは "うつぶせ寝"の状態で管理されるため、気道閉塞は容易に起こります。最も危険な状態は、赤ちゃんが母親のオッパイを吸っている最中に、寝てしまった時です。睡眠中の新生児の筋肉は弛緩するからです。うつぶせ寝の状態では、頭の重力(約1kg)で、口腔・鼻腔は完全に塞がれる危険性があります。この動画は、口腔・鼻腔が児頭の重さでオッパイに押し付けられた状態です。その証拠に、呼吸運動に合わせ、イビキ様のスースーという呼吸音が聞かれます。女児はまさに窒息寸前の危険な状態に陥っています。気道閉塞がなければ、この様な呼吸音は絶対に聞こえません。正常の呼吸音を聞くためには、聴診器が必要です。医療従事者がこの異常な呼吸音・窒息状態に気付かなければ心肺停止は時間の問題です。赤ちゃんが寝入って筋肉が弛緩した状態では、自分の力で頭を動かし、窒息状態から逃げることはできません。女児は、この呼吸音が聞こえてから15分~20分後に心肺停止の状態で発見されました。

 この呼吸音を聞いた父親は動画のなかで、『寝てしまったのだろうか』と発言しています。素人の父親には、この呼吸音が正常か、窒息寸前の異常な音かの鑑別は困難です。判決文には、『授乳の際に、一般に、乳房による児の鼻腔の圧迫による窒息の危険があることは、医療関係者でなくても容易に理解することができる』とあります。しかし、分娩直後の母親は、睡眠不足で、長時間の陣痛に体力を消耗しきった疲労困憊の状態で、まともな判断はできません。また、厚労省・医学会・被告病院が推奨する出生直後のカンガルーケアの長所だけを刷り込まれた母親に、窒息の危険性があるとは誰も予測できません。

 産科医療補償制度の検討委員会はこの動画を見て、『心肺停止の原因を特定できない。ゆえに、原因不明のSIDSニアミス/ALTEが考えられる』と家族に報告しています。しかし、この動画は誰が見ても窒息寸前の状態で、産科医・新生児科医には当然わかるはずです。助産師が継続的に児の観察をしていれば、窒息を予測できたはずです。予測できた事故はSIDSニアミス/ALTEの診断の定義に反します。本件は、うつ伏せ寝にした病院側、継続的な観察を怠った助産師に非があります。結論は、『原因不明のALTEではなく、窒息による医療事故』です。早期母子接触中の心肺停止事故は、被告病院だけでなく、カンガルーケア(うつ伏せ寝⇒窒息)を推奨した医学会と厚労省にも重大な責任があります」


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