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SNSI中田安彦レポート

ウクライナ政変と米露資源戦争(1)
SNSI中田安彦レポート
2014年3月27日 10:34
SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

 3月18日にロシアがウクライナを併合した数日後の25日に、オランダのハーグで予定されていた「核セキュリティサミット」の合間を縫って主要7カ国(G7)は会談し、安倍晋三首相を含めた首脳らはロシアのソチで6月に予定していたG8サミットの中止を決めた首脳宣言を発表した。首脳宣言では、ロシアのクリミア併合を違法と避難し、ロシアの方針変更がなされるまでG8からロシアを追放するというもの。

 6月のG7サミットは、冬季五輪の開催地でもあったソチではなく、欧州連合本部があるベルギーのブリュッセルで開催することになった。首脳らは、ロシアがさらにウクライナの東部地域で事を起こすならさらなる経済制裁を行なうと発表し、同時にウクライナへの金融支援、エネルギー安保強化についても合意した。

 欧米メディアの論調を裏書するというか、そのまま翻訳しているだけとしか思えない日本の大新聞は、オバマ米大統領ら西側首脳が言うとおりにロシアを一方的に批判する論調を展開している。たしかに、ロシアが軍隊や非正規部隊をクリミアに送り込んで、分離独立を決める住民投票を実施させたことは、批判されて仕方ないものがある。しかし、ロシアを批判すれば問題は解決するのかといえばそうではない。

ukraine-flag.jpg クリミア併合に至るまでの動きをまず理解しなければならない。事の発端は去年の11月にウクライナがそれまでの欧州連合に融和的だった姿勢を、突如ロシア側に転換したことがある。EUとの拡大協力を進める連合協定の署名を土壇場で取りやめたわけだ。そのことがきっかけで親欧州派の学生らが首都キエフのマイデン広場に集まって抗議を始めた。2004年、ウクライナでは、同じく親欧州派による政変(オレンジ革命)が起きて、欧州・アメリカ寄りの大統領と首相が誕生していた。10年後に同じことが起きたわけだ。抗議集会の参加者は11月下旬に10万人を記録し、抗議に参加する若者たちが広場を占拠する状態が2月に90人以上の死者を出すまで続いた。

 この間、ウクライナのヤヌコビッチ大統領(当時)は、EUではなくロシアとの間で経済支援を取り付けて、総額150億ドル(約1兆5,000億円)の支援を受けることが決まっていた。新興国にも劣るウクライナの経済状況は旧東欧諸国に共通した悲惨な状態だ。ウクライナは欧州とロシアの間で経済支援をしてくれる相手を探さざるをえない状態だった。今回、ウクライナにはG7の経済支援だけではなく、IMFなど国際機関の緊急融資も行なわれるだろうが、それはウクライナの構造改革を条件に行なわれるはずで、南欧やギリシャの金融危機で問題になったような、超緊縮財政を強いる可能性が高い。そうすれば経済はさらに失速するほかはない。ヤヌコビッチ大統領が寛大なロシアからの支援に切り替えようとしたのは理解できる部分がある。

 オリンピックが起きると国際情勢が緊迫するというわけではないだろうが、中国やロシアは五輪を国威の発揚と考えていることは確かだ。08年の北京五輪は平和裏に終わったが、ロシアが五輪開催中にグルジアに侵攻した。今回のソチ五輪の数カ月前から、ロシアはEUとの連携を深める「東方パートナーシップ協議」に参加していた同じく東欧のモルドバなどに対し、その主要輸出品であるワインの禁輸を支持するなどの嫌がらせを行なっていた。ウクライナやモルドバ、それにポーランド、バルト三国のような国々は、ロシアと欧州の間に広がる回廊のような国家群だ。これらの国をソ連が存在していたとき、ロシアは衛星国としていたがソ連崩壊後は、次々と「西側」に編入されていった。アメリカもブッシュ前政権の折には旧東欧諸国を欧州連合から切り離すために、「古いヨーロッパ」「新しいヨーロッパ」と呼んでここに軍事的な影響力を拡大しようとしていた。旧東欧のチェコなどにミサイル防衛の基地を置こうとしてロシアから抗議を受けていた。

 しかしそれでも、オバマ政権の1期目にはそれまでのブッシュ政権の対露政策を「リセット」するという意図でロシアと米国の関係改善が顕著になった。オバマ政権はアフガニスタン戦争を終わらせるためにもロシアとの協力が必要だったのである。
 さらに、去年にはシリアの内乱が激化し、アサド政権が反体制派に化学兵器を使った虐殺があった疑いが濃厚になり、米国の軍事介入も寸前と言われた時にも、米国のケリー国務長官は、ロシアのラブロフ外相の仲介によるシリア国内の化学兵器処分の案に賛同した。イランの核兵器開発をめぐる交渉も、イランに原子力技術を提供しているロシアの存在なしには進展がなかった。

 ところが、この中東・ペルシャにおいて成果を上げつつあった外交の一方で、東欧側面ではロシアがEUの拡大政策に対して不満を募らせていたわけである。ロシアにとってシリアは寄港する軍港を提供してくれる貴重な国である。ロシアは緯度が高い所に位置する大国なので、昔から温暖な土地にある軍港を求めて南下してきた。今回ロシアが併合したクリミアも、有名なセバストポリ軍港がある。そこからロシアの黒海艦隊はトルコのボスポラス、ダーダネルス海峡を越えてようやく地中海に出ることができる。

 ロシアの財政の7~8割は石油・天然ガスの資源輸出で獲得する外貨で成り立っている。この外貨収入を、国内のエネルギー開発へのインフラ投資資金や、国内の高齢者年金のための財政資金としてプールしてあるわけだ。ロシアのガスや石油は、ロシア国内から延びるパイプラインによって欧州諸国に運ばれている。
 英FT紙のまとめによると、欧州諸国が輸入する天然ガス全体に占めるロシアの割合は非常に高い。フィンランド、チェコ、ブルガリアは100%をロシア産に依存しており、スロバキアは99.5%、ルーマニアは86.1%、オーストリアも71%である。再生可能エネルギーが進んでいるドイツや地中海に面したイタリア、経済的に停滞しているギリシャでは、35.7%、28.1%、59.5%と比較的低いが、3割以上を占めている。依存率が極端に少ないのは原発大国のフランスなど少ない。

 つまり、地域大国ドイツのエネルギー全体に占めるガスの割合は22%でその35%がロシア産となる。このようにロシア産のガスに依存する欧州諸国に対してロシアはいざとなればパイプラインの蛇口を閉じることで危機に陥らせることができる。実際にウクライナ向けのガスがストップされたことはこの10年で2回あり、いずれも冬であった。

(つづく)

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<プロフィール>
中田 安彦 氏中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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