長崎県港湾建設業の先駆け（後）＜世界に感動を与えた佐久間艇＞
明治43（1910）年４月15日、山口県新湊沖で発生した潜水艇・佐久間挺の事故は、日本国内にとどまらず世界中の新聞や雑誌でも大きく取り上げられた。イギリスの新聞『グローブ』紙は、「この事件でわかることは、日本人は体力上勇敢であるばかりか、道徳上、精神上にもまた勇敢であることを証明している。今にも昔にもこのようなことは世界に例がない」と伝えている。
日本駐在の各国の武官は、詳細な事故報告書を本国に伝えるとともに、海軍省を訪れて弔意を表明した。これらは通常の外交儀礼をはるかに超えたものといわれている。米国は、当時国会議事堂の大広間の一角に、この遺言の原文コピーと英訳文を陳列していた。また、英国海軍の潜水艦学校は、現在も教科書で佐久間艇長の沈着冷静な行動を紹介し称えている。いまだに世界中の海軍で佐久間艇長は海軍軍人の鑑となっている。
明治の詩人である与謝野晶子は佐久間艇長を悼んで「瓦斯に酔ひ息ぐるしくとも記しおく沈みし艇の司令塔にて」「武人のこころ放たず海底の船にありても事とりて死ぬ」などの短歌を詠んでいる。夏目漱石は『文藝とヒロイック』という評論を書き、その中で佐久間艇長の遺書を国家の一大文書として称賛している。
明治天皇からは佐久間艇長の遺書に応えて遺族に見舞金を届けるという特別の計らいがとられた。また海軍省と朝日新聞によって義援金の募集が行なわれた。現在の貨幣価値では億単位になる５万6,000円の義援金が全国から寄せられる。
この事件は、今では歴史の彼方に忘れ去られてしまったのか、日本の教科書に登場することはなく、佐久間勉の名前を知る日本人はほとんどいない。しかし当時は日本国内のみならず、世界中の人々に感動を与えたのである。
現在、佐久間艇長の霊は、福井県若狭町の前川神社境内に「六号神社」として祀られている。また今年も、佐久間艇長が殉死した命日にあたる４月15日、威徳顕彰祭が行なわれ、海上自衛隊音楽隊による演奏や、イギリス大使館付武官によるスピーチが行なわれた。
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＜プロフィール＞
濱口 和久 （はまぐち かずひさ）
昭和43年熊本県菊池市生まれ。防衛大学校材料物性工学科卒業。陸上自衛隊、舛添政治経済研究所、民主党本部幹事長室副部長、栃木市首席政策監などを経て、国際地政学研究所研究員、日本政策研究センター研究員、日本文化チャンネル桜「防人の道 今日の自衛隊」キャスター、拓殖大学客員教授を務める。平成16年３月に竹島に本籍を移す。現在は、日本防災士機構認証研修機関の（株）防災士研修センター常務取締役。著書に、『思城居（おもしろい）』（東京コラボ）、『祖国を誇りに思う心』（ハーベスト出版）、「だれが日本の領土を守るのか？」（たちばな出版）。11月25日には、夕刊フジに連載中の企画をまとめた『探訪 日本の名城 上-戦国武将と出会う旅』（青林堂）を発売。公式HPはコチラ。
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