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大さんのシニア・リポート~第8回 行政マンが熱い自治体もあるという話(後)
行政
2013年1月18日 07:00

 千葉県松戸市に「すぐやる課」という部署がある。昭和44(1969)年10月に誕生した。「すぐやらなければならないもので、すぐやり得るものは、すぐにやります」というのがコンセプトだ。今もあり、人気部署である。でも、役所というところは「話を聞かない」「動きが鈍い」「無責任」「仕事をしない」と、必ずしも芳しい評判を耳にしないことのほうが多い。その一方で面倒な仕事もなんのその、進んで火中の栗を拾い、問題解決にまい進する行政マンもいるのである。熱いのである。

danti.jpg 高齢者は見知らぬ(初対面の)人にいきなり本音を話すことはまずない。私の場合も、初対面の人(一般人の場合)には本題に入る前に世間話から入る。それも時間の許す限り長々とする。ノンフィクション作家に成りたてのころは、即本題に入りたくてかなりイラついたものである。その様子を相手はじっくりと観察している。合格するとその後の取材はスムーズにはかどるが、不合格になるとけんもほろろ扱いとなる。それもそうである。見ず知らずの人に自分の体験談を披瀝するのである。披瀝する価値の有無は、取材される側の個人的な裁量にゆだねられている。当然なのである。

 その姿勢は「ころつえ」でも変わらないと梅澤相談員は話す。
「相談すべき問題を抱えているはずなのに、いきなり本音を切り出す人はいません。差し障りのない話をしてから、じっくり本題に入ります」。

 高齢者の3題愁訴は「愚痴」「病気」それに「見栄」だと私は思っている。「見栄」というのは、自分の存在理由に関すること。仲間に無視されたり拒否されることをひどく恐れる。これらを嫌がらずに聞いてくれる人を高齢者は信用する。すると心が溶けるように安らかになるのがわかる。こうなると指導員との間に強い絆(結)が生まれる。「ころつえシニア相談所」はこうして住民に認知され、地域に根差した活動が可能になった。
 平成6(1994)年に介護保険関連の機関、地域包括支援センターができた。地域の高齢者を心身共に支えるのを目的とするという意味では、「ころつえ」の先輩格に当たる。仕事の内容が重なる部分があるから、ふたつは不要という合理的な考え方をする人もいるだろう。しかし、ふたつは微妙に違うのである。それにセーフティネットは多いほうがいい。

 高齢者の行動範囲は非常に狭く、歩いて通える場所に施設があることは重要だ。さらに、包括支援センターは電話相談ののち自宅訪問となる。だが、電話で相談を持ち込むということが高齢者には勇気を必要とする。なかなか難しい。近所に相談できる場所があればそこを利用する。残念なことに、「ころつえシニア相談所」は足立区ではここだけ。モデル支援事業としてスタートさせたのだから、2年余で成否を今問うのは早計だろう。成功させることが今後の展開にとって何より大切なことである。「高齢者の(心身ともの)見守りや安否確認事業」の成否のカギは、利用する住民の熱意にもかかっていることを忘れないでほしい。

 一方で、防犯・防災上空き家は多くの自治体で頭を痛める問題のひとつである。人口約70万人の足立区では東日本大震災を教訓に、空き家解体と整地に力を入れている。年度内は解体費用の半額を、来年度には全額補助の予定と聞いている。実効速度が速い。ここでも危機感が他の自治体と違うのである。

 特筆すべきは高齢者の孤独死防止を目的に、個人情報を自治会や町内会に提供するという「孤立ゼロプロジェクト推進に関する条例案」を12月議会に提出したことだろう。これは一昨年春、中野区が全国初とし注目を集めた「地域支えあい推進条例」と基本的には同じである。足立区の素早い対応に舌を巻くばかりだ。予想以上に高齢化した街と住民を、行政の立場から放置できないと判断したためだ。

 平成21(09)年度の調査だが、「区絆づくり担当課」(こういう部署があるのである)によると、区内で65歳以上の単身高齢者が死後8日以上経過して自宅で発見された事例が186件あった。区としてこの状況を放置することなく、検討を重ねたものの、個人情報保護法がネックとなり手をこまねくばかりだった。中野区の成功例を見るまでもなく、条例案の提出は人的にも金銭的にも大きな出費を科せられる大事業なのである。「行政主導から民との共存」をあえて選択したその気概にまず拍手を送りたい。「新しい公共」を旗印に、足立区や他区の元気な行政マンが具体的に取り組む内容については次回報告したい。

(つづく)
【大山 眞人】

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<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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