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大さんのシニア・リポート~第9回 行政マンが熱い自治体もあるという話2(前)
行政
2013年2月22日 07:00

 前回東京都足立区が注目されていることを報告した。「ころつえシニア相談所」「孤立ゼロプロジェクト推進に関する条例」「空き家対策」など、区民、とくに高齢者にやさしい取り組みを矢継ぎ早に提案した。それも一部は国の「手挙げ方式」による支援を受けるという「勇断」を示した。「勇断」といったのは、ほとんどの自治体が手を挙げなかったからだ。それは火中の栗を拾うようなもので、仕事量が増えることを役人は好まない。区内に住む高齢住民が追い込まれていると足立区は判断し、敢えて手を挙げたのである。

 高齢者の個人情報を地域の自治会や町内会に提供して、「孤立化」や「孤独死」から高齢(独居)者を守るという発想はかつての行政にはなかった。
 
 個人情報保護法を盾に開示を拒む。個人情報は役所の金庫の奥深く眠ったままにして、日の目を見ることはない。これを行政自ら金庫を開け、個人情報を住民に提供したのである。こうまでしなければ、高齢住民を救う手だてがないことに気付いたからだ。「行政がギブアップした」といえば、日ごろ行政の怠慢を揶揄している住民にとって、留飲を下げる思いなのだろうが、これを逆の視点で見れば行政の「大いなる決断」、つまり「勇断」といえる。
 こうした発想は、鳩山由紀夫元総理が平成22(2010)年1月29日の施政方針演説のなかで取り上げた「新しい公共」という発想(考え方)がもとになっていると思う。「新しい公共」とは、「これまでの公共的サービスは、行政側からの一方的な提供だった。これを市民も公共サービスを提供する側に回る。行政は市民を信頼し、権限を委譲する」という考え方だ。もはや高齢者の置かれている状況が行政の力量をはるかに超え、民間(住民)の知恵と経験、スキルに頼らなければ成り立たないことを示している。高齢者の居場所「幸福亭」を運営し、行政の厚い壁に幾度となく跳ね返された経験を持つわたしにとって、これはまさにコペルニクス的大転回であった。

om_4.jpg 高齢者らの見守り活動のために自治会や町内会への個人情報提供を全国で最初に実行したのが東京都中野区の「地域支えあい推進条例」である。
平成23(2011)年11月、支援を必要とする方への見守り活動を推進するため、高齢者や障害者の氏名住所などを記載した名簿を地区の自治会や町内会に提供した。
 区内4カ所に出張所を設け、その下に「区民活動センター」を置き、2人の職員を配置する。町内会や自治会はここを拠点として活動する。行政側からの人的、資金的な供給もある。つまり、現場で見守る側は有料のボランティアとなる。その代わり、個人情報を行政と共有するのだから、他人への漏洩や名簿屋などへの売買という違法行為に対しては、最高30万円の罰金が科せられる。
 残念ながら未だに取材する機会に恵まれないので、現状を把握しているわけではない。町内会や自治会にとって、高齢者の見守りは初めての経験であり、実施から1年余りが過ぎ、多くの課題に直面していることは想像にかたくない。しかし、中野区は、「新しい公共」を最初に実施した先駆的な区である。矜持を持って具体的に問題を解決していくだろう。少なくとも、こうした熱い行政マンもいるという事実が、わたしの目には実に頼もしく映るのである。

om_3.jpg 全国にある自治会や町内会の役員メンバーはどこでも著しく高齢化が進む。役員の成り手がなく運営に支障を来しているのが実情だ。「会員としてのメリットを感じない」というのが主な理由だろう。係わりたくないと思う人にとって、自治会主催の行事への参加は「忌むべき義務」としか映らない。「自治会や町内会がなくとも日常生活にさほどの不便を感じない」というのが本音だ。
 わたしが住む街の自治会や町内会もご多分に漏れず入会率が下降線をたどる。街自体が急激な高齢化に見舞われている。必定、役員の多くが高齢者となる。高齢化率50パーセントを超すある地区の自治会には、認知症の執行役員がいて、意味不明の発言を繰り返すという笑えない状況下にある。自治会のトップの顔ぶれに変更はなく、自治会費の詐取というあってはならない事件も起きている。もちろん活発な自治会もあると聞く。

 もし、「新しい公共」という発想のもとに、中野区や足立区のような「高齢者見守り条例」が施行され、先の見えない疲弊した自治会や町内会に対して協力を求められたらどうなるだろう、と考えたことがある。
 答えは「ありえない」だ。
 「新しい公共」は、それなりに成熟した自治会・町内会を前提とした発想でなければ成立しない。闇雲(一律)に個人情報を渡すのは危険極まりない。現場は大混乱となり、責任のなすり合いのもと、自治会・町内会そのものが崩壊する。

(つづく)
【大山 眞人】

≪ (8・後) | (9・後) ≫

<プロフィール>
ooyamasi_p.jpg大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。


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