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特別取材

適正なアプローチで国土強靭化を(中)~京都大学教授・藤井聡氏
特別取材
2013年2月21日 14:10

 アベノミクスの一翼を担う大規模な国土強靭化計画を支えるブレーンである、京都大学工学部の藤井聡教授。「政府としての検討は、まさにこれから、まだ何も決まっていませんが」と前置きする藤井聡氏に、これまで「専門家として発言してきた内容」について聞いた。

<空気は常に合理的ではない>
 ――維持補修の予算が必要ですが、公共事業の推進は、「税金の無駄遣い」など否定的に見られる側面もあります。

 藤井 これまで、公共事業を推進しようと言ってきたのは、どちらかと言えば、少数意見だったと言えるかもしれません。一方で、少なくとも社会心理学では、少数派の意見は、多数派の意見に封じられるという社会現象が起こることが指摘されています。

 このことは、理論的には、「沈黙のらせん」(ドイツの政治学者ノエル・ノイマンが提唱)と言われます。日本の評論家の山本七平さんの言葉を借りれば、「空気の研究」という著書がありますが、これまでの日本には"空気"として、公共事業を肯定しにくい雰囲気が存在してきたと解釈できるかもしれません。空気は常に合理的かというと、必ずしもそうではありません。
 例えば、非合理的な空気の典型が「いじめ」や「体罰」で、それらを許す空気が間違っている、ということもあり得ます。
 公共事業のやりすぎは良くないという空気が、正しいのかそうではないのか、合理性があるのかないのか――国民1人ひとりが考え、議論を深める機会だと思います。

 ――公共事業では、競争原理が働きにくく、どのように適正な競争をしていくのか――。一部のゼネコンだけが潤うのではないかという意見もあります。

fujii.jpg 藤井 建設業者の仕事が少ないときに過剰な競争をしていると、短期間で多くの会社がつぶれてしまいます。そうなると、仕事が増えたときに対応できません。仕事が増える最大の事例は、地震、津波、洪水、山崩れなどの危機のときです。こういう非常事態の際、建設業界は、民間ではありますが、国民の生活を立て直す「国民生活の安全保障隊」のような役割を果たします。東日本大震災のときも建設業界が活躍して、彼らがいなければ、自衛隊が入ることさえできなかったという地域もあることは、これまでメディア等で報道されている通りです。
 建設業者は、非常事態に備えて、「国民の安全保障」のためには、それがどの程度なのかは慎重に議論する必要がありますが、少なくとも「一定程度」の数が存在していることが不可欠であることは間違いありません。もちろん、どの業界も社会的意義を持っているのですが、建設業界は、「生活の安全保障」の観点からその社会的な存在意義がとくに高い。ぜいたくのために存在しているわけではなく、適正な業者が、適正な場所にある程度の数で存在しておく必要がある、という側面は存在していると言えるでしょう。
 公共事業には、発注する難しさもあります。ある程度の競争原理を働かせなければなりませんが、競争の促進にはメリット、デメリットもあります。強者だけが生き残ったり、一部の大手ゼネコンだけが潤ったりすることもあり得ます。
 過剰な競争が起こると、ダンピングによりダメージを受けるのは、中小の建設業者。どういうかたちの受注制度にするか、どういう風な競争にするのか、難しい面はあります。受注制度についても慎重に議論する必要があるでしょう。
 そして何より、過剰に競争すると、「生活の安全保障」が成り立たなくなる可能性もあります。促進することのメリット、デメリットと、抑制することのメリット、デメリットがあることを踏まえて、多面的に考えていかなければなりません。

<職人の手が足りない>
 ――民主党政権下で、「コンクリートから人へ」という方針のもと、公共事業が削減され、建設、建築、土木に携わる職人が少なくなっています。自民党政権に変わり、公共事業が増えるものの、実際に手が足りないという状況が生まれてきています。

 藤井 受注量が減っていましたので、手が足りないのは、必然的な流れでそうなりました。供給力を増やすには「長期的な見通し」が必要です。長期的な見通しがなければ、建設業者も人を増やせませんし、投資もできません。
 投資が増える要因にはいくつかあります。「当面景気が良いだろう」「民間の需要がたくさんあるだろう」という好景気のなかでは投資が増えます。これは当たり前ですが、現状はそういう状況ではありません。
 安倍政権で、デフレ脱却でインフレ期待をつくろうとしていますが、まだデフレを抜け切ってはいません。建設業界で投資を増やしていこうとするならば、「公共事業の発注が毎年、どれくらいの水準で安定的にあるのか」という見通しが立てば、投資が進んでいきます。とりわけデフレの状況下では、民間投資が縮小していますから、公共投資の支出見通しが立つということが建設業における投資のためには必要なわけですね。そうあってはじめて、建設業の方々は人を雇えますし、投資も増やせるわけです。財政を考えるうえではいろいろな側面に配慮をすることが不可欠ですが、こうした側面も十分に理解したうえで、検討を加えていくことが必要となるのではないかと思いますね。

(つづく)
【文・構成:岩下 昌弘】

≪ (前) | (後) ≫

<プロフィール>
fujii_pr.jpg藤井 聡(ふじい・さとし)
1968年奈良県生まれ。2012年12月に発足した第2次安倍政権で内閣官房参与(防災・減災ニューディール政策担当)に就任。京都大学大学院工学研究科教授。11年より京都大学レジリエンス研究ユニット長。専門は「公共政策に関わる実践的人文社会科学全般」。表現者(発言者)塾出身。公益社団法人国家基本問題研究所客員研究員も務める。産経新聞社『正論』欄執筆メンバーの一人。実践的社会科学研究について03年土木学会論受賞、07年日本行動計量学会林知己夫賞、村上春樹文芸評論について06年「表現者」奨励賞、07年文部科学大臣表彰・若手科学者賞、09年日本学術振興会賞、進化心理学研究について09年日本社会心理学会奨励論文賞等、受賞多数。著書に『社会的ジレンマの処方箋:都市・交通・環境問題のための心理学』『土木計画学』『なぜ正直者は得をするのか』『公共事業は日本を救う』『救国のレジリエンス』『維新・改革の正体』などがある。


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