<肌で感じられる「国富論」が必要!>
――「物語力」はこの後、どの様に、進化、変化していくとお考えですか。
岩佐 「物語力」はこの10年ぐらいでかなりポピュラーになりました。「物語力」をマネージメントに応用する動きはますます盛んになると思います。「物語力」は経営手法でありマーケティング手法でもあります。人を動機付け、パフォーマンスを引き出す大もとを生み出す力と言ってもいいでしょう。2008年のアメリカの大統領選挙でオバマ氏が証明して見せたように、経営者ばかりでなく、いい政治家も、「物語力」を上手に利用できる人です。たとえ自らが創作しなくてもヴィジョン(物語)がある人でなくてはなりません。
――「物語力」は、今後あらゆる分野でますます必要になってきますね。日本の政治世界ではいかがでしょうか。
岩佐 3年3カ月ぶりに政権交代があったわけですが、残念ながら民主党の時も自民党になっても、日本をどのような国にして、儲けさせ、国民を養っていこうかという物語、つまり「国富論」が国民に提示されていません。「アベノミクス」においても、円安、株高は結構なことですが、プレゼンテーションやキャッチフレーズのうまさの割に、物語が見えてきません。
日本は戦争に負けて以来、国体、国富を考えることがタブー視されてきたきらいがあります。産業再生、外交、エネルギー、食料などにおいて、今こそ国民が肌で感じ、共有できる夢のある物語が政治家には求められます。
――確か、「マニフェスト」を民主党に提案されたのも岩佐さんですね。
岩佐 提案させていただいた時点ではマニフェスト選挙の時代を迎えていませんでした。しかし、政権党としての道筋をシナリオとして絶対に必要と、仙谷由人前衆員議員ら民主党幹部に申し上げました。
別の会食の機会には、同じく前衆院議員鳩山由紀夫氏に「実際はそうではなくても、政権を取ったことのある党としてふるまってほしい。国会の質問などを見ると声高にわめきすぎており、中身を聞く前から国民はキンキンしたトーンだけで、ああこの党は敗者だな、弱者だなと、直感的に判断してしまうものです。それでは政権を取れません」などと申し上げたこともあります。そのせいかどうか知りませんが、そのあと民主党幹部の国会質問は大人びてきて、ある意味相手を諭すようなトーンもでてきたように感じています。実際には政権を取るのは2009年ですから、それから10年はかかったわけですが・・・。
小選挙区の制度もあって今回、民主党は大敗しました。しかし、民主党も力をつけてくれるのが、結局は日本のためにもいいことだと有権者のひとりとして思っています。それも地元への利益還元とか姑息な利便を図るのではなく、堂々と「国富論」に基づく物語、グランド・ストーリーの競い合いを期待したいと思います。
――ありがとうございました。
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<プロフィール>
岩佐 倫太郎(いわさ りんたろう)
京都大学文学部(フランス文学専攻)卒業後、株式会社大広入社。広告制作、イベント、博物館・博覧会のプランナー・プロデューサーを経て、2003年独立、株式会社ものがたり創造研究所設立。ジャパンエキスポ大賞優秀賞他受賞歴多数。
「地球をセーリング」(加山雄三)他作詞、「ウィンドサーフィン・レーシング・テクニック」他翻訳、「ニュージーランド・ヨット紀行」他執筆と多才に活躍中。美術と建築のメルマガ「岩佐倫太郎ニューズレター」を4年で100号近く発行。絵の独自の見方と表現に多くのファンを持つ。近刊として「東京の名画散歩 ~絵の見方・美術館の巡り方」(舵社)。
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