アベノミクスによる経済効果は、建築業など一部の業界を活気立たせているが、市井の暮らしを豊かにしているとは言い難い。誰もが安定し、豊かな生活を送るために、地域住民でできることはないのだろうか。この問い掛けに対する１つの答えとして、「経済的に自立した地域社会づくり」を目指す「もやいバンク福岡」（福岡市中央区、中村肇代表）は、地域の人々へ豊かな暮らしを提供する事業へ無担保・低金利で融資を行なっている。

＜経済的に自立した地域社会がしあわせを呼ぶ＞
　先日行なわれた５周年記念イベントでは、「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長ほか多くの代表を務める田中優氏と、糸島市での自然農体験を通じ、環境保全の大切さに目覚め、著書などで情報発信を行なう女優の杉田かおるさんを招き、今、地域に暮らす人々が何をなすべきか考えるにあたって、知っておいた方がいい情報などを提言する講演会を開催した。
　まず田中氏が、「市民が創る新しい社会～お金・エネルギー・仕事」と題し、世界的な経済状況に左右されず地域住民が豊かに暮らすために、なぜ地域貢献型の金融の仕組みが必要になるのかを語った。

　田中氏は、「お金」の価値が誕生した歴史社会的背景から「お金中心の社会」が生まれるまでの経過を説明。紙幣が本来発行されるべき量より過剰に市場に出回るようになり、その差を埋め合わせるために物を大量生産して購買する仕組みができたことや、金融商品に依存する社会が生まれたことなどを語った。また、デフレが続き物価が下がり続ける日本では物づくりが軽視され、今や物を作るより、金銭を所持する方が得をする社会になっていること、大手金融機関に貯金した金銭が預金者の意志と関係なく海外の事業に投資されていることなどが説明された。
　今後、市井の人たちが幸せになるには、地域で作ったものを地域の人々で購入しながら地域経済を活性化していく地産地消と地域貢献企業への投資などを行なうことの大切さなどに触れ、「社会を変えていきたいのなら、政治家になる、口コミで正しい情報を人々に伝える、ということ以外に、自分たちで新しい仕組みをつくる、という新しい選択肢もあると語った。

　また田中氏は、太陽光発電システムを活用した自身の生活を紹介。太陽光発電によって生じた電力をバッテリーに貯め、家電製品をエコ化するなどの工夫を行なうことで、原発に頼らないエネルギー自給自足の生活は実践可能であることを示した。

＜杉田かおるさん、糸島で学んだ自然農の暮らしを絶賛＞
　田中氏の講演の後、田中氏と杉田さんの対談トークショーが行なわれた。東京在住の杉田さんは、糸島市で自然農を学ぶことで、ライフスタイルが大きく変わったという。
　杉田さんは小学校の頃、担任から環境を守る大切さを教えられた。長年の東京、芸能界生活で忘れかけていたが、３.11をきっかけに、自然と共生する意義を自問することに。糸島市で自然農を営む、故・松尾靖子さんに師事し、１年間、自然の生態系を損なうことのない農業を学んだ。「原発事故で多くの命が失われた現状を目の当たりにし、『いのち』という言葉に執着するようになっていました。糸島市では、自然との触れ合いを通して、じっくりと考える時間をもらいました」と杉田さん。そのとき、幼い頃に学んだ環境破壊の恐ろしさや、自然と触れ合い、人以外の生物を含めて「いのち」と向き合うことの大切に思い至るようになった。
　田中氏が「年齢と共に妥協を覚えていく人が多いなか、杉田さんは逆にどんどんと自然で素直な状態になっていきますね」と語ると、杉田さんは「自分のなかからできるだけ無駄なものはそぎ落としていきながら歳を重ねたい。オーガニック製品は高いと思われているが、大事に食べるのでかえって食費は減った」と答えた。東京へ戻った後も、著作活動を行なうなど、環境保全をテーマとした情報発信を行なっている。

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