＜社員の意見を聞いても翌日には簡単に翻す＞
　ガリヤが好調な時期は「費用対効果」という言葉に、現実味はなかった。スポンサー側にも「何かしないと、売上げに結びつかない」と危機感があったからだ。
　ところが、クーポン雑誌が登場すると、ガリヤの広告に対しても「お客さんが何十人、何百人来るのか」と、クライアントからレスポンスを問われるようになった。そんなガリヤの窮状を鑑み、戸高氏やＭ氏からは、売上げ回復ための施策が提案されている。
　「ガリヤの広告は、『御社にとって営業マンの１つですよ』という理屈は、通らなくなった。時代が変化すれば、スタイルも変えなければならない。日曜日の折込みチラシのようではなく、もう少し整理して企画物を増やしてはと、社長に進言した」と戸高氏。
　「その時はＴ編集長を立ててくれて何とか形になりつつあった。でも、そうなると（それまで全部広告枠にしてきた）自分が寂しくなったのだろうか。社長は『私が自分で営業マンを育てる』と言い出した」と戸高氏は語る。でも、そうするにしてももう遅きに失したということである。
　Ｍ氏も「もっと読み物を増やしてはどうかとか、またチラシやポスターなどの販売促進企画も一緒に提案してみてはと、いろんなアイデアを出した。その時は社長も考えてみるとは言うものの、翌日には却下してしまう。そうなると、もう社長に対し、誰も意見を言わなくなった」と振り返る。
　戸高氏も「社長が思いついたことを言って、次に社員からそれを引き合いに出されると、そんなことは言っていないと開き直った」と、長澤社長の朝令暮改を指摘する。

　破綻から２年前の2012年の春には、すでに給料の遅配が始まっている。毎朝の朝礼で長澤社長は「今月、トータルで800万円の売上げがないと、給料が出ません。それに対し目標を達成できない人は、辞めてもらいます」と語るだけになっていた。
　営業スタッフの中には、月に100万円以上の売上げを取る有能な社員が何人かいた。長澤社長は彼らに新人の面倒も見るように指示した。
　だが、営業をしながら自ら記事も書かなければならない。 自分の仕事で手一杯なのだから、新人の教育どころではない。 その頃、社員の間で交わされていた会話は、「いつ辞めようか」「どのタイミングで言いだすか」だったとＭ氏。
　長澤社長はそんなスタッフの心情をくみ取るどころか、スタッフが退職すれば、その欠員として新しいスタッフを採用するだけに過ぎなかった。
　でも、新人がすぐに戦力になるはずもない。だから、そのしわ寄せは既存のスタッフにかかってしまう。経営者に対して、スタッフの気持ちが離れているのだから、これではもう組織の体を成していない。

（当記事は各関係者の証言をもとに作成しています）

（つづく）
【釼　英雄】

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