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アメリカ国防総省が進める「進化した人間創造計画」(4)
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2013年4月16日 10:18

<スパイダーマンの主人公をつくる>
kusuri_img.jpg DARPA(米国防総省国防先端技術開発局)では兵士たちが空腹や疲労、恐怖心などを克服するための薬の開発にも取り組んでいる。このプログラムは「メタボリカリー・ドミナント・ソルジャー」と呼ばれている。開発責任者のジョー・ビーリッツィー氏は、半分冗談を交えながら「我々が現在取り組んでいるのは、あの映画「スパイダーマン」の主人公を作ろうということだよ」と楽しげに言う。
 人間のあらゆる細胞をコントロールすることにより、兵士たちのメタボリズムをオリンピックのメダリストのレベルまで引き上げようというわけだ。人間の身体は60兆個といわれる膨大な数の細胞から成り立っているが、元をたどればひとつひとつの細胞は極めて小さなものである。このひとつひとつの細胞のメタボリズムを飛躍的に高めることにより、人間全体の運動能力を強化しようとの発想に他ならない。

 たとえばミトコンドリアを例にとってみよう。ミトコンドリアは、各細胞にパワーを与えるエネルギーを製造するものとして知られている。ビーリッツィー氏の研究は、筋肉細胞の中にあるミトコンドリアの数を人工的に増やそうとするもの。それによって、ミトコンドリアが生み出すエネルギーの効率を高めようというわけである。
 この強化されたミトコンドリアを持つ兵士であれば、今まで1分間に80回の腕立て伏せをしていたとすれば、今後は300回も楽々こなせる体力アップが可能になる。重たい荷物や兵器を抱えて、ほぼ永遠に走り続けることも可能になるという。しかも空腹感や疲労感をコントロールできるわけで、食事をとる必要がない兵士が誕生すると言う。
 戦場においては、特に十分な食糧やカロリーを摂取することが難しい環境に直面することも多い。そのような厳しい環境下でも、体力や精神力、そして判断力が維持できる。そのような兵士を作り出すことが、DARPAにとっては緊急の使命になっているようだ。
 戦場で多くの兵士が命を失う最大の理由は、体力を消耗し空腹にさいなまれ、誤った判断を下してしまうからである。そのような状況から兵士たちを救うために、DARPAでは少なくとも年間400億ドル(約4兆円)の研究を、このような兵士の人体改造計画に投入していると見られる。

<国家予算の半分を占める国防費が民生技術をリードする>
 そこまで行くと、既に人間なのかロボットなのか、境界線があいまいになりつつあるようにも思われる。しかし現実には、我々の想像をはるかに超えるスピードと範囲で、人体のサイボーグ化が進んでいることは間違いなさそうだ。
 人間の脳とコンピュータを結ぶトランス・ヒューマニズムの応用実験は、DARPAがスポンサーをする形で確実に進んでいる。アメリカを代表する軍需産業ジェネラル・ダイナミックス社では、これまで見てきたような人体機能を強化した兵士を現実のものとするための研究委託を30億ドルで請け負った。2010年には、米軍の全ての兵士たちにボディーセンサ付きの軍服の支給が始まったほどだ。
 ビーリッツィー氏曰く「我々が最も関心を持っているのは生身の人間の命を、どれだけ大切にできるかということである。我々は心の底から平和主義者である。戦争のような悲惨な状況は御免被りたいと思っている。しかし現実の世界には、テロリストもいれば独裁国家も存在し、いつなんどき我々に戦争を仕掛けてくるかもわからない。その時に、我々の兵士が無事戦い抜き、生きて愛する人の元に帰ってこられるようにするためには、ひとりひとりの兵士を"戦うスーパーマン"に変身させて戦場に送り出す必要がある。」
 確かに、もっともな考え方かもしれないが、技術的に可能であるからといって、それを全て人間に当てはめることが、どこまで許されることなのか。いずれにせよ現実にアメリカでは、国家予算の半分以上が国防費に投入されている。

 ことほど左様に、アメリカでは軍事目的の研究開発が民生技術をリードするケースが多いのである。何しろ、国家予算のほぼ半分を国防予算が占めているお国柄。毎年、国防総省で開催される「軍民技術フェアー」には、世界中から投資家やベンチャー起業家が集まる。彼らの狙いは、本来、軍事目的で研究開発が始まった技術の中から民生応用の効きそうなものをいち早く見い出すことにある。
 なぜなら、交渉次第で気に入った技術の使用権を国防総省から譲り受けることができるからだ。こうしたプロセスを経て、国家予算を投じて始まった技術開発が民間企業に移転し、新たな商品開発や新規事業となった事例は数多い。いかにも「開かれた情報開示の国」らしい戦略といえよう。

(つづく)
【浜田 和幸】

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<プロフィール>
浜田和幸氏浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。現在、外務大臣政務官と東日本大震災復興対策本部員を兼任する。


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