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トリアス久山物語『夢の始終』(44)~トリアスが残したもの(前)
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2011年10月11日 07:00

<小早川町政の成果と積み残し課題>

 トリアスというユニークなショッピングセンターの開発により、久山町は年間2億円程度の税収効果を得ているという。久山町の財政規模は歳入合計45億だが、うち町税は18億という規模なので、トリアスの存在感は大きい。

 これだけの町づくりの核を作り上げ、それが税収源としても存在感を示すほどになったのは、本稿前半で書いたように小早川町政の成果といっていいだろう。
 それも、4期28年の集大成として実現した、というよりは4期28年をやるなかで小早川がそれまでとってきた開発抑制策の軌道修正を決断し、それを実行し得た、ということが大きい。

 小早川は最後まで、時代の先に求められるものが何かを考え続けた。
 その結論として、それまで取り組んできた96%市街化調整区域化に象徴される開発遮断政策を、自ら軌道修正した。この軌道修正を実現するために本藤のような開発マンを呼び来み、それまで取り組んできた健康プロジェクトと連動する形で健康田園都市、久山町スポーツ公園、メディカルゾーンといった開発に着手した。そのうえに、バリューセンター構想をぶち上げ、トリアスを実現したのである。

 小さな田舎町の町長を28年務め、その選挙のほとんどは無投票という環境であれば、並の人物は慢心してしまうだろう。成功した人ほど、過去の自分を肯定するようになるのが普通だからだ。
 しかし、小早川がその長い任期に慢心せず、リーダーの役割として任期の最後まで未来を見据え続け、久山を単なる田舎町に留め置かなかったことは賞賛に値する。

 ただ、これらの開発プロジェクトはすべてが成功したわけではない。

レイクサイド久山 ゴルフ場のヘルシーパーク久山(ゴルフ場)は第三セクター会社を設立したものの、バブル崩壊の影響を受けて頓挫した。その後開発方針を変更し、テーマパークなどの実現を模索したが、2000年には破産のやむなきに至った。
 温泉を売りにしたレイクサイドホテル久山も、その集客力が注目された時期もあったが、今は客数が減少し苦戦していると聞く。

 市街化調整区域化の代償として、売却を希望する町民から土地を買い上げてきた土地開発公社だが、これも30億円の負債を抱えており、経営健全化のため毎年町が公社の保有土地を少しずつ買い上げている。

 これらは、久山町に限らず全国の自治体でみられた光景であり、久山町の政策だけが誤っていたということではない。1990年代初頭のバブル崩壊以来の日本経済の成長トレンドを見誤った結果である。
 久山町の場合は、人口稠密な福岡都市圏に位置する立地の優位、そしてトリアスという安定した財源基盤を活かしながら再生を図っていくしかないだろう。

 トリアスの運営母体は二転三転したが、ショッピングセンターとしては何とか息を吹き返した。そこで当該エリアの地権者には、さほど高い水準ではないが継続して地代収入が入ることが見込めるようになった。借地料は、2000年以降のイオンなどの大型ショッピングセンターの借地料と比較すると約3分の1から半分の水準といわれるが、その結果、ショッピングセンターの所有者やテナントも妥当な利益を計上でき、経営が安定することになる。

 一方、町内には開発が頓挫したエリアや、いまだ開発の恩恵を受けないエリアもある。このため、久山町内に地権者の格差問題が発生している。これは開発が渇望される動機になる。

 しかし、そこは「餅は餅屋」である。

 90年代までの第三セクター方式はうまくいかない。ハコもの投資に投資し、公務員が「武家の商法」の商法をしても、競争の激しいマーケットでは勝てない。トリアスの場合も、土地は借地権のままとし、最小限の軽装な建物のみを所有し、運営は(一時期、プロ不在の状況に陥ったが)プロフェッショナルの民間企業に任せのがよかった。いわばハコへの投資を最小限にして、目に見えないノウハウであるリーシングに投資した結果、賑わいを取り戻すことができた。それでも、本稿で書いたようにさまざまな困難に直面してきた。
 今後の開発についても、やはり民間企業による自発的な投資を呼び込むことが成功の条件である。行政としては、開発規制の容易化や道路・水道など周辺基盤の整備、それに民間事業者への公的融資などで、これを支援するにとどめるべきだろう。

(つづく)

【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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