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最終回 トリアス久山物語『夢の始終』(46)~トリアスが残したもの(後)
経済小説
2011年10月13日 07:00

<本藤憲司氏のこと>

 本藤氏は、トリアスの関係者のなかでも、その誕生から現在まで現地で関わってきた唯一の人物である。このため、自然、トリアスの歴史を追いかけた本稿も、本藤氏への取材をメインとして構成して書いていくこととなった。

 このため本稿をまとめるに当たり、私は、本藤氏に2日間に渡り取材し、開発請負業者として過去にふるった辣腕の数々を、オフレコの話も含めて伺うことになった。
 そのなかで、私がどうしても不自然に感じたのは、あれだけ開発にともなう関係者との利害調整をこなし、着地させてきたクロージング力を持っている本藤氏が、なぜ、開業後のトリアスに対して損失を被る一辺倒になったのか、ということである。かなり大きな金が動く世界なので、少々の貸し借りはあるだろうが、それにしても、と感じるのである。

 とくに、本藤氏が株式会社トリアスに貸し付けた7,000万円が、平山氏個人への貸付として処理されてしまった話などで、それを感じた。

 私は、そのように感じたときに、何度も、「なぜ、そんなことを受けたんですか?」「なぜ、契約書を締結なさらなかったんですか?」と聞いたが、本藤氏は、そういった問いに対してはいつも何も答えず、ただ「あのときは毎月の資金繰りが大変だったからね」といってはぐらかす一方だった。
 この頃、本藤氏は、株式会社トリアスの内部者ではなく、トリアスの一角に個人の事務所を構えている立場にすぎなかったが、私には、本藤氏が限りなく内部者に近い立場で諦観しているように見えた。

 ひとつには町議としての立場もあろう。公職となれば、町内の事業で個人として収益を上げることははばかられよう。しかし、それだけで、ここまで本藤氏が損失を被ることを良しとした動機は説明できそうにない。

 しいていえば、そういうときに本藤氏が何度となく口にしたのが「トリアスは小早川さんの遺志だから」「地域のために」という、ふたつの言葉だった。これは、本藤氏の一本気な性格ゆえのやせ我慢かもしれない。が、本藤氏にとっては、トリアスはあくまでも地権者・地域のためのプロジェクトであったので、周囲から誤解されようが、その原点を決して外さず、ことに当たってきたのは事実である。

 トリアスは、不動産事業であるだけでなく、厳しい競争にさらされる流通業でもある。厳しいマネジメントが要求され、時には非情な判断も求められる。それにトリアスの場合は、町内における存在感が、大都市における商業施設とは比較にならないほど大きいうえに、借地権方式をとったので、事業主体との関係性もさらに継続的になる。だから勢い利害関係者も増える。口先では皆が、「小早川町政の継承」「町の発展のために。」といっても総論賛成各論反対となる。
 そのような条件下でもトリアスが成功裏に運用されるためには、本藤氏がやってきたような地域と事業の架け橋となるような役割は必要だろう。

地域づくりの物語が、今後も... 久山町は、福岡市近郊の小さい町ではあるが、その地域づくりの挑戦は大きな実験であり、まだ続いている。開発案件が実現していない集落もあるが、今後何らかの進展も見られるだろう。地域にふさわしく、時代のニーズに合い、事業としてもきちんと成立するような開発が、求められる。
 地域づくりの物語が、今後も地域共有の資産として継承され、発展してゆくことを願ってやまない。

(了)

【石川 健一】

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<プロフィール>
石川 健一 (いしかわ けんいち)

東京出身、1967年生まれ。有名私大経済学卒。大卒後、大手スーパーに入社し、福岡の関連法人にてレジャー関連企業の立ち上げに携わる。その後、上場不動産会社に転職し、経営企画室長から管理担当常務まで務めるがリーマンショックの余波を受け民事再生に直面。倒産処理を終えた今は、前オーナー経営者が新たに設立した不動産会社で再チャレンジに取り組みつつ、原稿執筆活動を行なう。職業上の得意分野は経営計画、組織マネジメント、広報・IR、事業立ち上げ。執筆面での関心分野は、企業再生、組織マネジメント、流通・サービス業、航空・鉄道、近代戦史。


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