ティムズ販売のハイブリッド製品は、ネジ山にスリットを入れることにより、『ゆるみ』や『もどり』を防止するネジとして考案された結合部材である。世界初となる「緩み止めネジ」は、日本、アメリカ、中国、韓国で特許を取得。また、納入実績には、中小企業のみならず、YKKAPやLIXIL、石川島播磨重工業、ブリヂストンなど業種を問わずそうそうたる企業が名を連ねている。
東京都江東区に本社を構える株式会社ティムズ販売が、「ハイブリッドボルト」などの世界初となる商品を世に出し、躍進した影には実に痛快なエピソードがあった。会社設立と成功までの道のり、そして今回唐津に工場を新設するに至った経緯を、女性経営者である溝部五月社長に話を聞いた。
――御社のハイブリッド製品とは、つまり緩み止めの機能を持ったボルトやネジということですが、それを世界で最初に思い付くとは、コロンブスの卵というか素晴らしい発想ですね。
溝部社長(以下、溝部) 日本にネジというものが伝わったのは鉄砲伝来の頃です。西暦で言えば1543年。そのころからネジの山は常に螺旋だったのですが、スリットを入れることで"ネジの革命"を起こしたと自負しています。ただ、元々はこのようなビジネスをするとは自分自身、夢にも思っていませんでした。
溝部 私は元々福岡県の直方市の出身です。はじめは看護師をしていたのですが、20代中盤のころ「このまま結婚して家庭に入る人生では満足できないかもしれない」と思い、上京しました。本当に思い付きというか、ろくに準備もなく飛び出してしまったという感じです(笑)。上京してしばらくは生きるのに必死という具合で大変でしたが、数年後に知り合いとスナックを共同経営することになりました。お店は、好景気の後押しもあり、繁盛しました。それで、お店の内装工事をすることになったのです。内装工事といっても、当時はまだ専門の業者がいなかった時代です。その後、工事をしてくれた人々がお店の常連になり、親交を深めていきました。彼らが現在でも弊社の幹部として活躍してくれています。
――それは面白い縁ですね。しかし、繁盛していたお店を続けようとは思わなかったのですか。
溝部 結局、彼らと内装工事の会社を設立したのですが、スナックにはそれほど未練はありませんでした。私は、"チャンスの神様には後ろ髪がない"と信じています。そのとき、内装工事の会社をこの人たちと立ち上げたらきっと上手く行くという直感が働いたのです。それに、私は若い時期に看護師をしていたこともあり、数多くの患者さんの死を看取ってきました。人間はいつか死ぬのだから、後悔のないように生きなくてはならないとそのときに学んだというのも大きいです。
――結局、その直感を信じて間違いなかったようです。
溝部 60年代から、ヨーロッパのデザイン本などが国内に入ってきて、人々の価値観が変わりました。こだわった内装が流行し、豪華な受注が増えていきました。弊社としては、主に飲食店の内装工事にターゲットを絞っていたのが良かったと思います。社員は10人くらいで売り上げは年間約4億円ありました。ただ、バブル景気がはじけ、その後は徐々にデフレの時代に突入していきました。世間では日曜大工を始めるひとも増え始め、工事の単価も下落し、「もう内装の時代ではない」と読み、撤退することにしたのです。1995年あたりの話です。
――勇気ある決断です。
溝部 普通は40歳を超えたら、それまで培ってきた業種から外れたことをしないと思います。ただ、私はこれまでの経歴がそうだったように、過去の仕事にあまり囚われない傾向があります。しかし、まったく無関係だったわけではなくて、内装工事の現場で、「こんなネジがあったらいい」という議論がされ、その結果、ハイブリッド製品が誕生したのです。
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<プロフィール>
溝部五月 5月31日生まれ
血液型:A型 趣味:裁縫 好きな言葉:「ベストを選ぶ」
■株式会社ティムズ販売
所在地:東京本社 〒136-0072 東京都江東区大島7丁目41番8号 東宝ビル1F
TEL:03-5836-3251
FAX:03-5836-3253
URL: http://www.tim-s.co.jp/outline.html
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