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経済小説

「維新銀行」~第一部 夜明け前(52)
経済小説
2012年6月 6日 11:51

<第五章 谷本次期頭取誕生の軌跡>

協力者たちとの絆(8)

 谷本の支援を受けた山上正代は、維新銀行内でもその存在が知られるようになった。
 谷本は1953年7月に維新銀行に入行以来、約15年間総務部に在席。その間、労使協調路線の従業員組合の設立、維新銀行新本店の新築移転計画と竣工および企業年金制度のスタートなど大きな事業が一段落したことから、「そろそろ谷本君に営業店の仕事をさせておこう」との絹田頭取の計らいで、1968年に総務部次長から本店営業部の副支店長に転出することになった。

 谷本は初めての営業店勤務に当初は戸惑いがあったものの、次第に慣れていった。上司となった広中謙造は1年前に取締役に昇格し本店長となっていたが、絹田頭取から「谷本君は営業店での経験は初めてなので、良く面倒を見てやって下さいよ」と事前に告げられていた。

bgns_7_2.jpg 42才の若さで副支店長となった谷本は、年上の貸付課長や預金課長などを部下に持つことになった。しかし「絹田頭取の秘蔵っ子で将来役員になる人物」」としての行内評もあり、また本店長である広中の谷本に対する対応を見て、抵抗なく自然に受け入れてもらえる環境になった。

 副支店長となった谷本は、「将来の役員」としての呼び名が高いこともあり、取引先の社長から飲食の誘いを頻繁に受けるようになった。本部と違い各種の会合に出席する機会が多くなったが、若い谷本にとっては決して苦にはならなかった。むしろ取引先との会合がない日には、2~3人を誘いプライベートで飲みに出かけることも多くなったが、行きつけはスナック「果林」に決めていた。

 谷本がこの店を利用するようになったのは、谷本が総務部次長時代に維新銀行本店を建設した大手ゼネコンのM建設から誘われてからであった。17~18名程度が座れるカウンター席がコの字になっており、谷本はカウンター内で立ち振る舞う若い女の子達の足元がいつも見える、奥のコーナーを指定席としていた。
 ママの植田明日香は40代前半で、クラブ「椿」のチイママをしていたが、3年前に独立してスナック「果林」を開業。3名いる女の子は若くて愛想が良いことから店はいつも活気があり、谷本はそんな雰囲気が好きで、足繁く通うようになった。
谷本は組合出身者達と飲む時は、必ず「果林」に連れていっていた。山上正代の保険勧誘の協力の見返りであったが、その飲み代は山上ではなく、維新銀行本店を建設したM建設が受注のお礼として支払いを引受けており、谷本の懐は痛むことはなかった。谷本とM建設との関係が深くなっていったのは、その頃からであった。

 「天網恢恢 疏而不失」の諺の通り、若手のホープとして期待されている谷本が放つ黒い翳りを冷ややかに見つめる若手行員がいた。谷本と同じS大学の後輩で、後に維新銀行の筆頭専務となった松谷昭治であった。

(つづく)
【北山 譲】

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「この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません」


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