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「維新銀行 第三部 クーデター」~第1章 クーデター前夜(24)
経済小説
2013年2月 5日 07:00

b_1.jpg 谷野は、
「沢谷たち4人が自分の自発的な退任要求の案を取り下げ、代表取締役会長への就任か、それが適わなくても取締役に再任するとの打診があれば応じよう」
 と密かに心のなかで決めていたが、2時間以上におよぶ話し合いのなかで、誰一人その話に触れる者はいなかった。それは谷本から事前に、
「谷野君の再任をこちらからは絶対に提案しないこと、また例え谷野君から要請があっても決して受け入れてはいけない」
 と、念を押されていたからであった。

 また、谷野の方も、自分からその話を持ちかけることは、「自ら白旗を掲げ軍門に下る屈辱的な行為」であり、プライドが許さなかった。
 谷野の再任はしたたかな谷本の反対によって封じられていたし、谷野も自分の方から再任を言い出せないジレンマにあった。谷野が微かに抱いていた再任の望みは最初から幻であり、どんなに話し合いを繰り返しても双方の思惑は一致することはなかった。そのことは将に谷野の完全な敗北を意味するものであった。

 沢谷たちが帰った後、自分の部屋に一人籠った谷野は、
「取締役への再任の望みも断たれ、頭取を罷免されることが確実になった」
 と、自分自身に言い聞かせるように呟いた。
 谷野の心は、
「このまま誰にも相談することなく、悶々としてその日を待たなくてはならないのか」
と、忸怩たる気持ちに苛まれていた。谷野はこの気持ちを誰かに打ち明けたいと思う反面、
「既に沢谷たちが過半数を制しており、今更自分に賛同する役員に声をかければ、負け戦に誘うようなもので迷惑をかけるだけだ」
 との思いから躊躇していたが、もはや鬱積した感情は燎原の火の如く燃え盛り、やがてこの思いを誰かに伝えたいとの心理状態に追い込まれていった。

 暫く考え込んでいるうちに、ふっと大沢常勤監査役の顔が浮かんで来た。谷野は、
「そうだ、大沢監査役に相談して見よう。大沢さんは大学も同窓の先輩で、人事部でも人事課長と給与厚生課長としてコンビを組んでいたし、性格も良く知っている。今までの経緯を聞いてもらって今後どうすれば良いかアドバイスしてもらおう」
 と、やっと他人に打ち明けることを決心した。

 谷野は週明けの5月17日の朝、維新銀行6階の頭取室から同じ階の西側にある監査役室に足を運んだ。監査役室には大沢と下田の二人の常勤監査役が執務していたが、谷野は奥側の席に座っている大沢にそっと近づき、「話したいことがあるので、頭取室に今から来てもらえないでしようか」と、囁くように声を掛けた。
 谷野が大沢にそっと声を掛けたのは、下田隆監査役は前任の人事部長時代、維新銀行の人事情報を事前に第五生命の山上正代外務員に漏らしていたことや、「第五生命のアンケート調査」にも、山上の保険勧誘に積極的に協力した人物として記載されていたからであった。 

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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