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「維新銀行 第三部 クーデター」~第2章 クーデター当日(1)
経済小説
2013年3月 7日 07:00

yoake.jpg 臨時決算取締役会議が開催される2004年5月21日(金)、常盤支店長の堀部正道はいつもより早く5時前に目を覚ました。しばらく仰向けのまま目を閉じているうちに、ふっと、
「今日開催される経営会議や取締役会議は、何事もなく無事終わるのだろうか」
 との不安を抱いた。瞬間、その不安は一気に堀部の全身を押し包み、やがて不吉な予感へと駆り立てていった。
 堀部は、
「谷本相談役が頭取の時は、良い意味でも悪い意味でもある程度の情報は漏れていたが、谷野頭取になってからは顧客情報の漏洩問題が発生したこともあり、情報管理は以前と比べると格段に厳しくなったと感じてはいた。が、それにしてこの数日誰からも音沙汰がない。何かあったのでは」
 と、自分自身に何度も問いかけるように呟いた。

 堀部は、
『何もなければそれに越したことはないが、でも今回は何かどことなく雰囲気が違う。この数日谷野頭取や石野専務から何の連絡もないが何故だろう』
 と、強い疑念を抱き始めた。やがて、
『待てよ、そういえば大沢監査役からも何も連絡がないのはどうもおかしい。やはり何かあったに違いない』
 と、堀部の疑念は確信へと変わっていった。
 実際に『頭取更迭計画』が進行する過程で、谷野を中心とする改革派は堀部には連絡しないことを決めており、他方、谷本を頂点とする守旧派も、堀部を谷野頭取グループの一員と見做して、一切接触をしなかった。これが、堀部が蚊帳の外に置かれた原因であった。

 そんな立場に置かれているとは知らない堀部は、目覚めた時に襲った重苦しい不安がやがて現実のものとなり、後に改革派と守旧派とが繰り広げる『抗争の渦中』に身を投じることになろうとは、その時夢にも思っていなかった。

 堀部は重くのしかかった不安を拭い去ろうと散歩に出かけることにした。海辺に通じる社宅横の小道を降りていくと、穏やか海の向こうに西部常盤空港の滑走路が大きく広がっていた。心地良い潮風の匂いと穏やかな海辺の光景を目にした堀部は、次第に心を和ませていった。岩場を2~3分歩いて防波堤に辿り着くと、東の雲の隙間から陽光が差し込んで来た。堀部は光輝く空に手を合わせ、「取締役会議が何事もなく無事終了しますように』と祈っているうち、昂ぶっていた感情は潮が引いていくように平静さを取り戻していった。

 しかし堀部のその願いも虚しく、数時間後に繰り広げられる『谷野頭取更迭劇』(クーデター)によって脆くも打ち砕かれることになる。5月21日は、『全てのものが次第に伸びて天地に満ち始める』と言われる旧暦の小満であったが、改革派にとっては、守旧派によって『全てのものが破壊される』運命の日を迎えることになった。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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