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「維新銀行 第三部 クーデター」~第1章 クーデター前夜(27)
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2013年2月 8日 07:00

b_20.jpg 大沢は再度頭取室に谷野を訪ねた。谷野は先程と同じように、入口の扉にロックを掛けて応接室に戻って来た。応接室に座るとすぐ大沢は、
 「東南支店長の沢谷専務に電話をして、明日午後3時に監査役室に来てもらうことになった。維新銀行の監査役から呼び出しを受ければ、彼としても『ノー』とは言えなかったのか、渋々応諾するような言い方だった。僕の方からすれば、本当は時間がないので今日でも会って話を聞きたいところだったけれども、先方の都合もあり明日話を聞くことにした。
ところで一つ聞き漏らしたことがあるのだけども、取締役会議で動議を提出してあなたを罷免した後、誰を新頭取にするかは聞いているかね」
 と谷野に尋ねた。谷野は、
「直接は名前を聞いてはいないけれど、人心一新のために若返りをと、何度も繰り返し言っていたので、恐らく古谷首都圏本部長だろうと思うが」
 と言うと、すかさず大沢は、
「なぜ、次期頭取に古谷君なのかね。役付役員のなかから選ぶのであればまだしも、古谷君はまだ取締役になったばかりで、経営についての経験はゼロと言っていい程ないよね。どうも彼らの意図が良くわからんね」
 と吐き捨てるように言った。
 谷野は、
「恐らく吉沢常務を頭取にしたかったのでは思うんです。しかし彼は私より3才年下の60才ですから、それでは新鮮味がなく、私と交代する大義名分が立たなかったのだと思います。それで私と11才離れている古谷君を頭取に抜擢して、若返りによる人心一新をアピールしようとしているのだと思っています」
 と言った。

 大沢は、
「それにしても、経験の浅い古谷君を頭取に据えようとするなんて、それは誰が見てもおかしいよ。だいたい古谷君は維新銀行でどんな実績を上げたのかね。僕は監査役になって6年、随分営業店を臨店し、監査部から上がって来る各営業店の監査レポートを見たりしたなかで、古谷君は営業店の仕振りが悪い支店長のトップ5にいつも名を連ねていたよ。しかも彼が支店長をしていた支店では、第五生命の山上正代の保険料ローンを随分取り組んでいたが、勧誘が強引だったのか、後に顧客とトラブルを起こしている。当時は谷本頭取だったので表沙汰にならずに、もみ消したことが何件かあったと記憶している。
 まあそれを言えば、栗野会長や北野常務も支店長時代、取引先担当者が「外交かばん」を置き忘れ紛失する事件を引き起こしたりしているが、専務の谷本営業本部長(当時)に救ってもらっている。今回谷野頭取罷免に回る役員は、それぞれ谷本相談役に恩があったり、組合出身で第五生命の保険勧誘に貢献した功績で取締役にしてもらった人たちが寄り集まって、集団で頭取の首を挿げ替えようとしている。維新銀行も落ちるところまで落ちたね」
 と話し、監査役としての立場から、頭取のあるべき姿について、滔々と持論を展開していった。

(つづく)
【北山 譲】

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※この作品はフィクションであり、登場する企業、団体、人物設定等については特定したものでありません。


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