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景気がよくなれば雇用が生まれるってホント?~「いいね!」が社会を破壊する 楡周平著(新潮新書)
書評・レビュー
2014年1月14日 13:34

<人間どうしの生き残りをかけた競争>
 人間はいかに自分たちの暮らしを快適なものにするか、便利なものにするかに日々知恵を絞りながら今日に至っている。知恵は技術を生み、技術は産業を生み、産業は雇用を生んだ。しかし、それは同時に「人間どうしの生き残りをかけた競争」の始まりであった。企業は、労働の集約化を図り、生産性を高め、コストの削減に役立つ技術の開発や組織のありかたに知恵を絞るようになっている。

 すべてのモノと情報が、ネットのプラットフォーマーに呑みこまれていく。「いいね!」をクリックするたびに、我々は知らず知らずのうちに、自分の首を絞めている。より快適な、より便利な生活を追い求め、「無駄」を排除し続けた果てに生まれるのは、皮肉にも人間そのものが「無駄」になる社会というわけである。

<今の時代に安泰な企業などありえない>
 楡周平氏は、「ビジネスモデル小説」の第一人者。作家になるまでの約15年間在籍した世界最大の写真感光材メーカーであるイーストマン・コダックは、2012年1月にチャプター・イレブン(日本で言えば会社更生法)の適用を申請した。もはや、今の時代に安泰な企業などありえない。

 本書は、超優良企業はなぜ潰れたのか(第1章)~素早く動き、破壊せよ!~便利の追求が雇用を奪う~「いいね!」ほど、怖いものはない~勝者なき世界(第5章)で構成。 
ネットの進化が実社会にもたらすインパクトを作家の目で冷徹に見据えている。

<「人」は、経営の最大リスク要因である>
 雇用は仕事量が個人では賄い切れなくなったところに発生する。しかし同時に「人」は経営の最大リスク要因でもある。そこで経営者は、最少の人員で、最大の効率を上げる方法を考える。その1つの解決策は、業務を可能な限り単純化し、かつ標準化することである。これが可能になれば、個々の能力に左右されない、特別な技術の習得も、熟練の技も必要としない業務環境が実現する。極論を言えば、正社員など雇う必要がなくなる。
 「企業は人なり」とは、「十分、給与に値する働きをする」一握りの社員を指す言葉である。「人」は裏目に出ればまったく逆のことになるからだ。
 
遡れば、日本の産業の多くは労働集約型で、このリスクを覚悟で、人を採用せざる得ない環境に置かれていた。計算は算盤、書類は手書き、データの集計、分析など全てが手作業であった。とにかく、雇用なくして、企業の運営は成り立たなかった。
 しかしそれは過去の話。コンピューター、特にパソコンが現われ、環境は一変した。例えば、膨大な商品を扱う大手量販店においては、入庫から出庫までの一貫したシステムができると人間が介在する余地がほとんどなくなってしまった。

<「人」と「機械」とのコストを比較する>
 事実、2012年9月にイトーヨーカ堂は、2015年を目処に従業員のパート比率を9割に高め、約8,600人の正社員を半減することを発表、世間に衝撃を与えた。「企業は人なり」の時代から、「雇用そのものが無駄」の時代に突入したのである。格安航空会社、ネット通販等が成り立っている理由はここにある。

 認識すべきことは、この「無駄」の部分に生じた「雇用」によって生かされてきた人間が圧倒的多数を占めていた事実である。当然、景気が回復しても、この「無駄」の部分に生じた「雇用」は増えないし、生まれない。今の企業が欲しがっているのは単なる人手ではないからだ。

 所得格差がこれだけ拡がったのは、多くの仕事が人手に頼らざるを得なかった時代から、「人」と「機械」とのコストを比較できる時代になったからである。当たり前の能力しか持たない人が務まる仕事はどんどん機械にとって代わられていくことになる。

<大きなビジネスチャンス到来と考える>
 本書は、現在、就職活動中の学生諸君にも、一息入れたい時に、ぜひ読んで欲しい1冊である。第5章は「勝者なき世界」となっているが、裏返せば「敗者なき世界」とも言える。イノベーションによる従来技術の消滅、産業構造の崩壊、転換は間違いなく加速する。大会社は安泰と思っている諸君もいると思うが、企業がリストラして生き残ることと諸君が社員でいられることとは全く別次元の話である。

 しかし、そのことは、一方で、それにとって変わる産業の出現を意味する。機に乗じて富を築き上げる大きなビジネスチャンス到来と考えることもできるのだ。

【三好 老師】

<プロフィール>
三好 老師(みよしろうし)
 ジャーナリスト、コラムニスト。専門は、社会人教育、学校教育問題。日中文化にも造詣が深く、在日中国人のキャリア事情に精通。日中の新聞、雑誌に執筆、講演、座談会などマルチに活動中。


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2013年10月 8日 15:34
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