福岡市と北九州市の中間に位置し、豊かな自然、歴史、文化に恵まれた福岡県宗像市。これまで両政令指定都市のベッドタウン的な都市として発展を遂げてきた同市は、今後、どのような方向に進んでいくのか。これまで2期8年間にわたって市長を務め、今年4月20日に3選を果たした宗像市長の谷井博美氏に、話を聞いた。
<宗像ブランドのPRに向けて>
――最近、地方のブランドというものがよく言われてきていますが、宗像のブランドというところも、やはりPRしていかなければなりませんね。
谷井 宗像には大変多くの食材があります。農産物や畜産物、そして何と言っても玄界灘の荒波で育った海産物は逸品です。現在、「鐘崎とらふく」や「玄ちゃんあじ」など、地域特産品などの価値を高める活動もしております。
たとえば、昨年から今年にかけて、広島や東京で宗像市の「ふく」のPRを行なってきました。実は宗像市は、全国有数のフグ漁獲量を誇っておりますが、現在、その水揚げしたフグの大半を山口県下関市の南風泊市場に出荷し、「下関ブランド」として全国にお届けしている現状があります。同市場では、鐘崎産トラフグが最も多く取り扱われているにもかかわらず、宗像市鐘崎が「フグのまち」としてあまり知られていないことから、皆さまに鐘崎天然とらふく料理を味わっていただきたいと、PRイベントを開催したところです。
ほかに、有害鳥獣であるイノシシについても、加工処理施設を近隣の自治体とともに建設しており、商品開発やお土産開発など、いろいろと取り組んでおります。こちらは現在、「道の駅むなかた」でも、宗像産イノシシ肉「むなっ猪(ちょ)」として販売を開始しています。
<"神の島"の世界遺産登録に向けて>
――歴史というところでは現在、「宗像・沖ノ島と関連遺産群」を世界遺産にしようという活動に取り組まれていますね。
谷井 ユネスコの世界遺産の暫定リストに入ったのが、2009年1月5日ですから、もう5年経ちますね。そして今回、4月18日に推薦書素案を文化庁に提出しました。「宗像・沖ノ島と関連遺産群」の世界遺産登録に向けての活動は、県や福津市、地元の経済団体、市民団体と一緒に、「『宗像・沖ノ島と関連遺産群』世界遺産推進会議」を設置し、取り組んできました。内部で検討し出したのが10年くらい前で、そのとき私は副市長をしておりました。ですから、一番最初から関わっていることになりますね。
――それだけに、想いは強いわけですね。
谷井 そうですね。沖ノ島にある沖津宮、大島にある中津宮、そして宗像大社の辺津宮の3社に祀られている宗像三女神は古事記や日本書記にも出てきており、古代からここ宗像という地は大和王権の国家的祭祀であり、大陸との交流の起点でした。そして沖ノ島などは、今も連綿と"神の島"として続いているわけですね。この世界に1つしかない素晴らしいものを、市民が自信と誇りを持てるように、世界遺産登録に向けて動いております。
――宗像市の名前をPRする、大きなチャンスになりますよね。
谷井 やはり世界遺産というものは、あくまでも保存・保護することが目的です。決して観光目的とか、人にたくさん来てもらうための政策じゃありません。では、なぜやるかと言いますと、やはり世界に1つしかないこの"神の島"を中心にした宗像地区の古代からの歴史、国際都市、そういったことを世界の人に知ってもらうこと、それが宗像市民、あるいはこの地域、そして福岡県が誇りに思えることにつながるからです。
観光客の増加など、そういった効果は付随的なものです。もちろん、そういう観光目的で来られる方は増えるかもしれませんが、観光客のためにユネスコへの申請を行なうわけではありません。逆に、保存のために景観条例などの規制がかかるわけですね。結果として、地域振興に役立てばいいと思っています。宗像に素晴らしい、世界的に1つしかないような遺産があるということを、世界の人に知ってほしい。これが大きいです。
もう1つは、過程が大事です。市民の方を含めて、関わってもらうことによって理解してもらうことです。子どもたちに対して学校でも教えてもらっていますけれども、大きくなったときに宗像に対する誇りや自信、そういったものを醸成できるよう取り組んでいきます。
▼関連リンク
⇒宗像市公式ホームページ
<プロフィール>
谷井 博美(たにい・ひろみ)
1940年生まれ。63年、熊本大学法文学部卒業後、福岡県庁に入庁。92年に福岡県農政部副理事兼農政課長、97年に福岡県企画振興部長と、県の要職を歴任。99年に福岡県庁を退職し、空港周辺整備機構福岡空港事業本部理事に就任。2001年に宗像市助役に就任後、03年からは新「宗像市」助役を務める。06年に宗像市長に就任。その後、10年、14年と市長選に当選し、現在3期目を務める。
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